1x2

□冬支度
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 デュオは毛布の心地良さに包まれて目を覚ました。同時に感じる薬のにおい。
 そうだ――ここは病室だ。

 事の始まりは、同じく肌触りの良い毛布の中から始まる。



「ふわぁ」
 デュオは暖かく乾いた毛布の中で目覚めた。
「はて? ここはどこだ」
「覚えてないのか?」
「わあ!!!!X◎☆?∵■△!!!」
 横からふいに響いてきた、聞き慣れた低い声はヒイロ。

 な、なんだっけ……?

(考え中)

(ヒイさんの横顔に少しビビる)

(あ、そうでした)

「思い出したか」
「あはは、わりいわりい。昨夜は急に寒くなったもんだからさ」

 コロニーだと一晩でこんな急に冷える事はない。
 ろくに準備をしていなかったデュオは、あまりの寒さにヒイロ宅に飛び込んで来たのだ。
「平和ボケしている証拠だな」
 何か言い返したいデュオではあったが、勝ち目が全く無い事は学習済みだったため、非常に苦労して口をつぐんでいた。


「行くぞ」
「はい?」

 何で?
 どこへ?
 何しに?

「今晩は自分の家で寝ろ」
「あ、はいはい。冬支度しろって事だろ」

 外で軽く食事を済まし、あれもこれも欲しがる貧乏人を引きずって、ヒイロは目的地を目指して角を曲がった所で小さ溜息をついた。
 と、その耳に後ろから只事でない状態を告げるブレーキ音が飛び込む。

 それは子供を庇った死神さんが交通事故に巻き込まれた瞬間だった。



 デュオのベッドに腰掛けて、ヒイロが慣れた手付きで林檎を切っていた。
「いっその事、ヒイさんだったら入院なんて事までにはならなかったか。
 あ、いや、むしろ車が危なかったかもしんねえな」
 洒落ではなく、かなり本気で言っているらしい。
 もっとも彼(ヒイロ)を良く知る人で、それを否定する者はいないだろう。

「あ〜あ、退屈だ」
デュオは伸びをしながらそうぼやく。
「大人しくしていろ。脱走なんかするから、退院が遅れているんだろ」
デュオはへいへいと返事をしながら、林檎を一口ほおばる。

 つまり、現在のヒイロは半分彼の見張り役みたいなものである。
「でもよ、自分の事位、自分が一番良く分かるモンだぜ」
 ちなみに今の台詞は病院逃亡の彼なりの言い訳である。
「ココで寝てようと、家で寝てようと要は一緒の事だろ」


  (間)


 ヒイロは黙って返事をしない。

 やがて

 ゆっくりデュオを見つめる。

「入院が長引いているのは、そのせいだけだと思っているのか?」

 へ………………

 なんですか?
「お、おい。
 不気味な事言うなよ」
 ヒイロは無表情な中に、気のせいか同情の色が混じって見える。
 やがてデュオから視線を逸らし、再び目を合わせようとしない。

  冗談じゃないぞ。
  きっとヒイロはからかっているんだ。

  からかう?
  あのヒイロが?

  冗談言う奴じゃない。
  考えてみれば妙に怪我に関係なさそうな検査が多かったし。

  ヒイロ、おい〜
  こういう時にこの手の冗談は無しだよな?
  ヒイさんってば。
  あう〜、なんかやっぱり哀れむ様な目だぁ!!!
  俺、どうしちまったんだあ!!

「どうした、顔色が悪いぞ。
 少し眠るか?」

  う、う。
  うまくまとめられないけれど、【あの】ヒイロがこんな優しい事を言ってくるなんて、変だ。
  ゼッテー変だ。

  第一あのなまなざし。
  俺はいまだかつて、ヒイロがあんな顔をするのを見た事が無い。
  想像した事すら無いぞ。

「あ、あぁ。
 少し寝る」
 そう告げると、デュオは自ら大人しく毛布を被る。

「そうか。
 俺は少し、出かけてくるがすぐ戻る」

 今なら席を外しても心配なさそうなのを確認して、監視員は用事を済ませに病院を後にした。


 翌日

 実は昨日の午前中には今日の退院許可がおりていた事を、三つ編み君は初めて知らされたのでした。
 もちろん、ヒイさんはその事を【よっく】知っておりましたとサ。



 冬支度・つけたし話

 退院したとはいえ、怪我が完治してないデュオはそのままヒイロの部屋で居候生活決定。
 どうなる事かと恐る恐る入って行くと、その部屋にはすでにデュオ用の冬支度がなされており、それはあの時監視役中に抜け出した時に用意された物と知って
「相変らず素直じゃないなぁ」
 と、ふかふか毛布の中でぼやく死神君でした。

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