恨み辛みの果て
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さっきまでグズグズと泣いていた作兵衛は、今は俺の腕の中でスヤスヤと眠っている。その手はしっかり俺の服を掴んで、何がなんでも放そうとしない。
こんなにもなついてくれるのは嬉しい。嬉しい、けど…
俺の中では、確実に罪悪感というものが積み重なってきている。
「ごめん、な…」
シリアスな雰囲気は嫌いなのに、妙にしんみりしてしまう。
周りから“雅”と呼ばれる度に、自分が何者なのかがわからなくなる。
「かわいい寝顔しちゃって…」
「ん…っ…せ…んぱい…大好き…です…」
「……寝言までかわいいんだからなぁ」
大好きな人が死んでしまう。
未来で平々凡々な生活をしてきた俺には、到底理解できない苦しみだろう。それが、この時代ではこんなに小さな子どもにまで、身近なものとして存在している。
それに、ここは忍術学園…まさに忍術を学び、優秀な忍になるために修行を重ねる場。上級生ともなれば、実戦や任務も加わり、さらに命を危険に曝さねばならない。
そう考えると、最上級生は本当にすごいんだなぁ…
「おほっまだ寝てなかったのか?…って何だこの状況」
「おかえり、ハチ」
「お、お…ただいま…」
委員会活動から帰ってきたハチは、俺を見るなり固まった。
そりゃそうだろう。
なんてったって、ここにいるはずのない作兵衛が俺の足の間に入って眠っているのだから。
経緯を知らない奴から見れば、イチャイチャにゃんにゃんしていたようにしか見えない。
…やってないよ!誤解するなハチ!!
「作兵衛はともかく、孫兵は素直じゃないな」
「そういえば、孫兵はハチの委員会の後輩だっけ」
「ああ。“遠くから見てるだけでいい”ってさ。本当は近くに行きたいはずなのにな」
恋慕、尊敬、友愛、受ける身は1つなのに、こんなにも多くの気持ちが“雅”に向いている。この学園の、一生徒の“雅”は、それだけ影響力がある人間に違いない。
「なあ、ハチ。“男が泣くことについてどう思うか”って、庄左ヱ門と彦四郎に聞かれたんだけどさ、あれって何だったんだ?」
いろいろあって忘れてたが、“山、川”みたいな合言葉なんだろうか。
「2人がそんなことを…」
「ハチ、なんか知ってんだろ?」
「ああ…お前、よく言ってたんだ。“男はここぞって時に涙を流せ。泣いてばかりの奴はナメられるぞ”ってさ。そんで、最後に頭ぐりぐり撫でて励ますんだ。下級生は特に、そうやられるのが好きだった。…覚えて、ないよな…」
「んー…覚えてはないけど、その考え方は変わらないよ。だって、泣いてばかりいたら、本当に泣きたい時には涙枯れちまうだろ?」
俺は泣かない。涙を流すべき時は、まだ来ないから