恨み辛みの果て
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「バカな奴だ。天女様にたてついて、どうなるかわかってんだろ?」
「ぅ…ぐっ…」
声が出ない。
息が吸えない。
ドクドクと赤い液体が体内から溢れて、辺り一面の草原を汚していく。
嗚呼、私は死ぬのか。
愛する後輩を守れず、愛する我が弟を置いて。
憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!
下級生を守るべき上級生が天女にひっかかったことが。天女を中心に物事を考えやがった奴らが。
そして何より、天女ごときのために殺される自分が。
許さない。
学園を乱したヘイセイの女達。
怨み続けてやる。
死んでも、例え地獄へ堕ちようとも、怨んで怨んで、怨み続けてやる!
「…」
また、あの夢。
痛み、悲しみ、苦しみ、怨み、いろいろな感情の入り雑じった、切ない夢。
目の前の男達に突き立てられた刃は、夢の中の俺の肺を貫く。そして、夢の中の俺は、男達に対して何度も心の中で怨み言を吐くのだ。
「雅、何してるの。早く起きなさい」
「…はい、母さん」
何の因果か、俺は“天女”のいたヘイセイ、平成の世に生まれた。
血生臭いあの夢とは違って、平和で、淡白なこの時代。俺は、家でも学校でも馴染めずにいた。
「おはようございます、父さん」
「おはよう、雅」
夢に影響されているのか、俺も平成の人間なのに、平成の人間を受け入れられない。小さい頃から、他人とはあまり関わらないようにした。
人間に、平成の女に対して、嫌悪感が込み上げてくる。
「あなた、押し入れのモデルガン、どうにかして下さいな。物騒な家だと思われてしまいますよ」
「いやあ、親父の影響でね」
そういえば、父の家系は、その昔大層有名な狙撃部隊だったと聞いたことがある。
父の実家に行けば、昔使われていた火縄銃がある。数多く保管されているうちの一本を、銃マニアな父は家に持って帰ってきたのだ。
「雅、今日帰ってきたら、押し入れの整理を手伝ってくれないか」
「はい」
俺は、最後の一口のご飯を口に詰め込んで、鞄を持って家を出た。
よく噛まずに飲んだご飯が食道に詰まって、少し息苦しかった。まるで、今日の夢のようだ。