恨み辛みの果て

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「作兵衛、ごめんな。あんな、情けない姿見せちまって」
「情、けなくなんか…ないっです!」
「そう言ってくれるのは嬉しいよ。でも、俺としては、“完璧な先輩”としていたかったな」
「完璧じゃなくていいです!だって、だって俺っ先輩のこと…!」


そっと、人差し指で制した、その先の言葉は、聞いてはいけない。


「作兵衛。俺では、作兵衛の望む未来は与えてあげられない」
「せんぱ…」
「ごめん、ごめんな」



ごめんなさい――


















「うわぁぁああんッッ!!先輩がっ先輩が死んじゃったぁぁあッッ!!!!」
「落ち着けしんべヱ!まだ死んでない!」
「だって目覚まさないよぉッッ!!」


しんべヱ、と…とめ先輩の声だ。
ってことは、今のは夢…? なんてリアルな夢だったんだ。しかも、あれは作兵衛と生前の雅じゃないか。

やっとわかった、作兵衛がどうしていつまでも立ち直れずにいるのか。作兵衛は“雅”を…


と、考えるより、まずこの状況をどうにかしないとな。



「先輩っ先輩っ死んじゃダメです!」
「……勝手に殺すな…」
「っ!!せ、せんぱぁぁああいッッ!!」
「はあ…心臓が止まるとこだった…」



むっくり起き上がって、鼻水にまみれたしんべヱを抱き締める。しんべヱは、何度もごめんなさいと謝って、鼻水を擦り付けてきた。

見事な粘着力。顔を話したしんべヱの顔全体に、鼻水が糸を引いている。



「大丈夫か?これが何本かわかるか?」
「3本ですね。全然大丈夫ですよ。だから泣き止んで、鼻水をかもうな、しんべヱ。はい、ちーん」
「ちーんっ」



鼻水を拭いて、自分についた鼻水も拭き取った。勝手に近くにあったトイペを使ってしまったが、大丈夫だろうか。



「先輩、ごめんなさい…ボクの不注意で…」
「落ちてきたのが縄梯子で良かった。クナイや手裏剣だったら、その程度の怪我じゃすまなかった」
「それは運が良い。しんべヱ、俺はもう大丈夫。授業行っといで」
「でも…」
「いいから、ほら。乱太郎達が心配するだろ?」



まだ心配そうに振り替えるしんべヱを見送り、少しだけ痛む体を擦った。小さく息を吐いていたら、横から物凄い視線を感じた。

物凄い、というより、痛い。



「…なんですか、とめ先輩」
「痛いんだろ?縄梯子だって、あれだけの量があれば打撲することもあるんだ」
「大丈夫ですから、とめ先輩も授業に行ってください」
「だがしかし…」
「とめ先輩の視線痛いんですよ。何ですか、目付きが鋭ければ視線も鋭いんですか」



心配してくれるのはありがたいが、ジロジロ見られていい気はしないだろう。とめ先輩の好意をやんわりと(?)断り、とめ先輩を医務室から追いやった。

とりあえず、1人になりたい。

自分のものじゃない記憶が入ってくるのは、非常に疲れるのだ。


















俺は、先輩が好きです
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