恨み辛みの果て

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チラッ

チラチラッ



「…」



えー、こちら雅。現在、医務室の入口に不審人物を確認。容姿は緑色の制服に、茶髪。六年生です。こちらを伺っているようです。



「…伊作先輩」
「!」
「医務室に用があるなら入って下さい。なんなら俺が出ていきますから」
「そっそれはダメだ!まだ安静にしてなきゃっ…」
「うがっ!?」



よっこらせ、と立ち上がろうと掛け声を入れた瞬間、視界は反転し、天井がよく見えるようになった。あ、そこの染み人の顔みたーい。

…ていうか、俺の状態を知っているということは、手当てをしてくれたのはあの人か。



「あっご、ごめんね!痛かった…?」
「痛いですよ、硬い枕に頭がっつりぶつけましたから」
「ごめん…」
「ああ、今ので記憶がなくなってしまったかもしれない。ここはどこ私は誰?」
「!!!??」



ははは、なんて面白いんだこの人。焦りすぎてトイペ踏んですっ転んだり、立ち上がったら棚から物が落ちてきて下敷きになったりして。さすが不運委員長。

…あれ、なんで保健委員長なのに不運委員長って。



「冗談です」
「っじ、冗談に聞こえないよ…!」
「だって、伊作先輩が俺のこと避けるから」
「っ…」
「ぶつけた頭より、心が痛いです」



なんちって。
我ながら臭い台詞がどんどん出てくるわなぁ。どこぞの乙ゲーのヒロインちゃんみたいだ。

いや、訂正。俺、あの子達みたいな健気さは御座いません。



「ごめん…」
「そんな謝らないで下さいよ。なんか俺がいじめてるみたいじゃないですか」
「ごめん、ごめんっ…ぼく、は…君を傷つけてばかり、だね…」
「え、ちょっなんで泣い――」



ああ、そうか。
彼も“雅”を殺した奴らの1人。殺される間際の、あの体の中から焼き付けるような痛み。あれは彼の毒薬だったんだ。



「い、今でもね、薬を煎じる時には手が震えるんだ…自分の手で、大切な後輩を苦しめる薬を作ったんだ。そんな、そんな最低な自分が、みんなを助ける薬なんて作れるはずがないんだ…! いっそのこと、自分が毒薬で死んでしまえばよかった…」



うはぁ、どいつもこいつも、自分が死ねば償えると思ってやがる。他に選択肢は無いのか、と怒鳴ってやりたい。

だがしかし、五年の奴らの時みたいにがみがみ怒る気力も体力も、この怪我のせいでまったく出てこないのだ。



「そんなことしたら、伊作先輩を慕う後輩が悲しみますよ」
「僕を慕ってくれる後輩なんていない!」
「そう思ってるのは先輩だけですよ。だって、乱太郎が言ってたんです。伊作先輩は、優しい先輩ですって」
「乱太郎が…そんなことを…?」「そうですよ。だから、殺しただの苦しめただの言ってないで、今いる後輩を大切にしてあげてください。起こったことは既に過去の話。今さらうだうだ言っても、何も変わらないんですから」



うひぃ、めちゃくちゃ臭い台詞だー。自分どうした、頭打っておかしくなったのか!?
もう1回頭打ったら治るかな…



「ふんっ」



ゴッ



「えええぇぇぇ」
「うん、治った。…あ、気にしないで下さい。ちょっと情緒不安定なだけなので」
「いいいいやいやいや、気にしないで下さいって言われても気にするよ!なんでいきなり頭打ち付けたの!?額から血が…!」



今日は1日、怪我とか流血が多かったなぁ。明日はいいことがあるさ!

あしーたがある、あしーたがある
あしぃたがあぁるぅさー
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