恨み辛みの果て

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「悪かったな」



目が覚めて、一番最初に左門に言った言葉だ。

頭では理解しているはずなんだ。雅先輩が亡くなったこと。でも、それを受け入れられない俺の弱い心が、時に表に現れて先輩を探し始める。

最近はあまりなかったんだが、昨日またやってしまったらしい。



「作兵衛、先輩は部屋にいるぞ。帰ってきたんだ。先輩は、もうどこにも行かないって」
「左門、それは雅先輩じゃなくて…」



みんなが“雅先輩”と呼ぶあの人は、どんな人間なのかわからない。そんな奴には近づけない。

でも、何でだろう。
無性に会いたくなるんだ。

会って、名前を呼んで欲しい。
その愛しい人の声で。

笑顔を見せて欲しい。
その愛しい人の顔で。

あの人を認めたくないのに、この矛盾した気持ちが渦巻いて頭の中をぐちゃぐちゃにするんだ。



「確かに、あの人は雅先輩とは違う人間かもしれない。先輩みたいに、忍術も使えないし、戦えない。でも、先輩は戦う姿だけが先輩じゃない」



“あの人は、雅先輩の生まれ変わった姿なんだ。先輩は、生まれ変わって、平和なヘイセイからわざわざ来てくれたんだ!”



現実的ではないことを、何の間違いもないと言わんばかりに主張する左門。だが、その言葉はすんなりと頭に入ってきた。

あの人なら、変えてくれる。天女が消えても、完全には元に戻らなかった学園を、戻してくれる。

あれだけ天女だと疑っていた自分の気持ちは、どこへ消えたんだ。



「雅先輩に、会いたいんじゃないのか?」
「…っ」



会いたい。会いたいさ。
だって、愛していたんだ。いや、今だって愛してる。

あの人を忘れたことなんて、一度もなかった。忘れられるはずがない。



「先輩、作兵衛のこと怒ってないぞ。作兵衛から先輩に会いに行ったら、きっと喜ぶよ」
「左門…」



今さら、会っていいのか。
俺はただ、あの人を先輩の代わりにしたいだけなんじゃないのか。都合良く、利用するのか…?



「作兵衛、迷うな!司馬法に曰く“心体は疑うなかれ”だ!作兵衛の気持ちをしっかり伝えるんだ!」



俺の、気持ち…


次の瞬間、俺は駆け出していた。暗い廊下を、灯りも持たず走っていく。

まだ太陽が沈んでから、そう時間はたっていない。今ならまだ起きてるかもしれない。

ただ、会いたいという気持ちだけが、俺の足を動かしている。



「先輩っ…俺、俺はっ…!」
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