恨み辛みの果て
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「っあ…」
ゆ、め…?
「っ先輩!」
思わず飛び起きた。
見回した部屋は、見覚えのあるようでないような…
ああ、そういえば、昨日先輩の部屋に来たんだったか。
「…作兵衛、どうした…?」
「っ!?」
隣からの愛しい声に、ばっと横を見た。そこにはやはり、愛しい人が寝惚け眼で俺を見上げている。
よくよく見れば、まだ朝日が昇って間もない時刻のようだ。
「まだ朝早いよー…」
「す、すみませんっ…て…うわあっ」
突然体を抱きかかえられ、動揺する俺を他所に、先輩は眠りに入ってしまった。
こういう構図は、男が女を抱きしめる、というのが普通なのでは…
「せ、先輩っ…」
「んんぅー…まだ眠い…もうちょっと…」
ちょっとも待てません!
というか、俺の精神的何かが減ってく!
大好きな先輩の香りに包まれて、こんな近くに先輩を温もりを感じて、いろいろマズい。
「作兵衛、顔真っ赤」
「っ先輩…起きてったんですかっ…」
「作兵衛暖かいから、また眠くなっちゃうね」
「っ…」
人の気も知らないで。
恨みがましく先輩を睨み付けたら、先輩はカラカラと笑った。真っ赤になった顔じゃ、睨みを効かせたって覇気もへったくれもねぇ。
「魘されていたね、嫌な夢でも見たのか?」
低体温で冷え性な先輩の手が、優しく俺の頬を撫でる。このひんやりした感触は、熱く火照った頬を冷やすには程よい温度だ。
「先輩は、ここにいる…」
「っ……うん」
確かに、ここにいるんだ。
この温もりも、香りも、心地好い声も、優しい笑顔も、全部ここにある。
「作兵衛、二度寝しちゃおう。悪い夢を見たあとは、もう1回寝て良い夢を見るんだ」
「は、ぃ…」
そんなことを言う雅先輩の声は、こんなにも簡単に俺の睡魔を引き立たせちまう。
嗚呼、どうか
次に起きた時、この温もりが消えてしまわないで
もう、あの時の虚無感を与えないでください