恨み辛みの果て
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“雅先輩が倒れた”
慌てて走っていく数馬を呼び止め、何事か聞いた。そして返ってきたのは、冒頭の台詞だった。
それを聞いた瞬間、俺は足に力が入らなくなる錯覚に陥った。
先輩が、倒れた。先輩が、危険。先輩が…
「行かなくていいのか」
「っ孫兵…」
「“気をつけろ”…って、立花仙蔵先輩が言ってた」
「は、?」
「僕は、偶然にもよく先輩と遭遇するんだ。あの時、倒れる直前、あの人は穴の中にいたよ。ただ、いきなり様子がおかしくなったみたいで、立花先輩が助けたんだけど、ひどく苦しんでいたようだ」
事細かな情報に、さらに足下が覚束ない。やっと、やっと先輩を認められたのに、また、失っちまう。
どうしよう。
どうしたらいい?
「怖かっただろうね。雅先輩、閉所恐怖症だし」
「っ!…な、んで、お前がその事を…」
それは、それを知ってるのは、俺と五年生、六年生の先輩方だけなのに。
「なんで知ってるのか、そんな顔してるね。五年生の先輩方が話しているのを、聞いたんだ」
「、そう…かよ…」
「…行ってあげなよ。先輩は、苦しんでる」
「そんなの…言われなくても行くっつーの!!」
声を張り上げたのは、ただ焦ってたから。三年の中で、先輩のことをより知っているのは、俺だけだった。俺だけの、はずだったんだ。
それなのに、孫兵は知っている。先輩が閉所恐怖症だということ、その他にも、知っているかもしれない。
だから、早く行かなきゃ。盗られてしまう前に。