恨み辛みの果て
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―思い出す?
「…は、ぁ?」
目が覚めた時、まわりは真っ暗だった。ここが広い空間なのか、狭い空間なのかはわからない。けど、この空間に響く声の主が、ここにいないのはわかる。
「誰、」
―思い出さない?
「なに、言ってんだよ…思い出すって何を!」
―帰る?帰らない?
「な、何なんだよ…一体…」
―貴女は、私の代わりじゃなく、私自身
「代、わり…?一体何のことだよ!お前は誰だ!」
―嗚呼、ほら、呼んでる。貴女を呼んでる。
「…えっ―――」
「ん…っ…」
「っ雅!?先生!新野先生!雅が目を覚ましました!!」
立花先輩、の声…?
さっきの声は、もう聞こえてこない。あの暗闇も、ない。
アレは、何だったんだ…?
「ああっ良かった!雅さん、大丈夫。すぐ良くなりますよ」
「…新野先生…が、いるってことは、ここは医務室ですか…」
「そうですよ。文次郎くんが酷く焦ったように私のところにきてね。びっくりしましたよ」
「え、もんじ先輩?」
まわりを見回したが、この医務室にいるのは保健委員会のみんなと新野先生、そして立花先輩しかいない。
だが、話によるともんじ先輩は妙に暗い表情で自室に戻ったらしい。
「あ、あの…」
「どうした、雅。喉が渇いたのか?寒いか?」
誰だこの人。いや立花先輩だけども。こんなオロオロしてる先輩ってレアやないかー。
“忍術学園一冷静な男”の肩書きはどこへやら。
「仙蔵くん、彼女はもう大丈夫。君は自室に戻って、文次郎くんに彼女が無事目覚めたことを伝えてあげなさい」
「しかし…」
「あなたがいると、彼女はゆっくり休めませんよ」
「…、」
何か言いたげな立花先輩は、チラチラと俺の方を見つつ医務室から出ていった。
……それにしても、さっきの夢は何だったんだんだろう。あの声、どこかで聞いたことがあるんだよなぁ…。