恨み辛みの果て

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「ひぇ〜…」
「だ、大丈夫か雅」
「今のこの状態の俺を見て大丈夫だと思うのなら1度眼科に行くことをオススメしますよ土井先生…」



膝に手をついて、必死に体内へ息を取り入れた。なんせ、5000mぐらいずっと走らされたんだ。みんな、平成生まれの体力を買い被りすぎだよ。

ふうっと一息ついて顔を上げたら、そこには男の人が2人いた。2人とも呆然としていて、口をぽっかり開けて俺を凝視していた。



「ただいまって言えばいいんだよ…」
「え、むりだよ…言った瞬間、ここはてめぇの家じゃねぇクソがってなっちゃうよ…」



小声でヒソヒソ。いや、でも俺が言ったことガチだからね。ただいまって言って拒否されたら、悲しくて涙が出ちゃうよ。涙どころじゃない。身体中の外分泌腺から水分が抜け出てひからびちゃう。



「、あ…っ…雅…っ?」



きっと、目の前にいる人がお父さんだ。震える声で、腕で、俺を抱きしめた。

とても暖かくて、安心する。



「雅…ああ、ああ…わしの可愛い娘よ…帰ってきてくれたのか…」
「あ…うん…」
「…おかえり、雅。すまなかった…お前に辛い思いばかりさせた…家族として何もしてやれなかった…」
「そんな、こと…ないよ…
(どうしよう全然知らない)」



くそ、何で明るい思い出が1つも戻って来ないんだよ。戻ってこい記憶、今すぐに。

困って先生方の方を見たら、なんか涙ぐんでる2人に穏やかな笑みを向けられちょっと意味がわからなかった。



「えっと…その…」



キュッと、父さんの服を握った。深呼吸をして、ゆっくり体を離し顔を上げる。そしたら涙で濡れた父さんと目があった。



「…父さん、ただいま」
―父さん、ただいま



頭の中で、自分と同じ声が響いた。



「…ああ、おかえり」
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