恨み辛みの果て

□11
3ページ/5ページ

「すみません…いきなりこんな団体で…」
「いや、気にしないでください。それより…」



わしは外に目を向けた。そこには、一年は組の子ども達と戯れる雅がいる。わしは、目の前の光景が未だに信じられずにいるのだ。



「あの子は…」
「信じられないかもしれませんが、本当に雅なんです。平成という未来から、突然やってきました」
「未来、から…?」
「…はい。彼女は、御守りを持っていました。生前、大切にしていた御守りです」



そうだ。あの子は、肌身放さずあの御守りを持っていた。虎若が、初めて的の真ん中に当てた弾が入った、紫色の御守り。あれは、雅の墓に入れたはずだ。



「話によると、彼女の家は昔、大層有名な狙撃衆だったとか……それらから、我々は彼女が雅の転生した者だと判断しました」
「…そう、ですか」



あの子は、未来でどのような生活をしていたのだろう。両親は優しい方々なのか。未来は平和なのか。



「昌義さん、それで…1つ相談があるんです」
「は、相談…ですか」
「はい。実は…」























――――――…



「…」



怪しい。

若太夫が連れてきた雅そっくりの少女。本当に、雅なのだろうか。

先程まで、彼女は良い子達と戯れていたが、若太夫に引っ張られ少し離れた場所に来ていた。何者かわからない輩と若太夫を2人きりにさせられないため、私は後をつけた。



「姉ちゃん、ここだよ。…姉ちゃんの…お墓…」
「…そうか」



少女は、雅の墓の前で片膝をつき、石に刻まれた文字を辿った。



「こんなの、壊しちゃおうよ!姉ちゃんは帰ってきたんだから!」
「こらこら、ダメに決まってんだろ?」
「…どうして?」



少女は、若太夫の頭を撫でた。優しく、温かい笑みを浮かべていたが、それはどこか悲しげだ。



「虎若、姉ちゃん…この時代の雅は、ここから虎若の成長を見守ってんだよ」
「姉ちゃんは僕の目の前にいるよ!墓の下なんかじゃなくてっ…グズッ…ここに、いるっ…!」
「うん。俺はここにいる。けどな、虎…俺は強くて優しい姉ちゃんじゃない。平和ボケした未来から来た、…それこそ天女と同じようなもんなんだよ」



ああ、なんて儚げな存在なんだ。

若太夫の頭を撫でる手は、少し震えている。不安、なのか。自分という存在が揺るがされ、自分が誰なのかわからなくなっているのだ。



―照星さん…俺…どうしたらいいかわからないんです……俺が存在することに、何か意味があるんでしょうか…



お父上にさえ、自分の本音を言えなかった少女が、私に打ち明けた唯一の不安。あの時の儚げな表情が、未来からやってきたという少女と重なった。



「虎の姉ちゃんは、何があったってこの場所からしっかり虎を見てる。だから、壊すなんてことしちゃいけないよ」
「うっ…ひっく…ね、ちゃん…」
「…ほら!男がいつまでもメソメソしない!」



少女…否、雅は、若太夫の手を引いて皆の輪に戻って行った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ