恨み辛みの果て
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次の日、俺は授業の後すぐに渡されていた本を開いた。昨日は眠すぎて集中して読めなかったから、しっかり熟読しようと思う。
「ふむふむ…なるほど…うーん…」
全然理解できん。いや、理解はできる。想像できない。何だこの“力を抜いて踏ん張る”って。力抜いたら踏ん張れないよ。
「ん、あれ?雅、それって…」
「勘ちゃん、」
「それ、どっから持ってきたの?」
「昨日三郎から受け取ったんだよ。三郎はとめ先輩から受け取ったらしいけど」
「ふーん…」
勘ちゃんは、俺の向かいに座った。何時もの胡散臭い笑みじゃなく、真面目な顔だ。
「それ、雅が書いたんだよ」
「えっ?」
「基本を忘れず、けど術を自分のものにって…よく言ってたなぁ」
「そ、そうなんだ…」
凄いな、この世界の“雅”は。だから、こうやって基本から独自の戦い方まで記したんだ。
でも、何だろう。自意識過剰だと言われるかもしれないけど…これは、“俺”のために書かれたような気がするんだ。まるで、自分が死ぬということをわかっていたような…
「その本、理解できる?」
「う、理解…はできるんだけど…想像できなくて…」
「そりゃあ、読むだけじゃダメだよ。実践あるのみ!」
「実践…」
「俺が付き合ってやるからさ。ちょっとやってみようよ」
と、まあ…勘ちゃんの提案で、俺は裏山に来た。もちろん、薙刀を持って。勘ちゃんは忍刀を持ってきた。
裏山の中腹あたりに、ちょうど良く開けた場所があり、そこで修行を開始した。
「――そうそう、右手の力を抜いて…相手の攻撃を受け流す」
「む、ぐぐッ…あっ」
ドサッ
勘ちゃんの攻撃を受け流すため、右手の力を抜いた。そしたら倒れかかる勘ちゃんを避けきれず、しりもちをついてしまった。
…いったいどうやったら、上手く避けれるんだろう。
「ダメだよ、もっと早く動かないと」
「わかってるけど…」
「雅は女の子だから、どんなに筋トレやったって男には敵わない。力で勝とうとしちゃ危ないよ」
「男女の差は絶対越えられない壁だな」
「そーいうこと。雅は、スピードと身軽な動きで勝負しなきゃね」
スピードと、身軽な動き…
…じゃあ、まず素早く動いたり、軽やかに動けるようにならないといけないのでは…
「わかった?」
「え?」
「今、何が必要か」
「!」
か、勘ちゃん…
何も考えてないようで、案外考えてるんだね…見直したよ…
「じゃ、頑張って」
「えっ勘ちゃんどっか行っちゃうの?」
「うん。俺、これから委員会だから」
「あ、ああそっか。ありがとう、勘ちゃん」
「どーいたしましてー」
勘ちゃんは、手を振って去っていった。俺は、本と得物を持って、練習場へ向かった。
スピードを上げるには、とにかく筋肉をつけて、動きの幅を広げなくてはならない。
そう思って、練習場で薙刀を構えた瞬間――
「ぁ…」
「、作…」
まだ少し赤い目を大きく見開いた作兵衛が、こっちを見て動きを固めていた。