恨み辛みの果て

□13
2ページ/4ページ

次の日、俺は授業の後すぐに渡されていた本を開いた。昨日は眠すぎて集中して読めなかったから、しっかり熟読しようと思う。



「ふむふむ…なるほど…うーん…」



全然理解できん。いや、理解はできる。想像できない。何だこの“力を抜いて踏ん張る”って。力抜いたら踏ん張れないよ。



「ん、あれ?雅、それって…」
「勘ちゃん、」
「それ、どっから持ってきたの?」
「昨日三郎から受け取ったんだよ。三郎はとめ先輩から受け取ったらしいけど」
「ふーん…」



勘ちゃんは、俺の向かいに座った。何時もの胡散臭い笑みじゃなく、真面目な顔だ。



「それ、雅が書いたんだよ」
「えっ?」
「基本を忘れず、けど術を自分のものにって…よく言ってたなぁ」
「そ、そうなんだ…」



凄いな、この世界の“雅”は。だから、こうやって基本から独自の戦い方まで記したんだ。

でも、何だろう。自意識過剰だと言われるかもしれないけど…これは、“俺”のために書かれたような気がするんだ。まるで、自分が死ぬということをわかっていたような…



「その本、理解できる?」
「う、理解…はできるんだけど…想像できなくて…」
「そりゃあ、読むだけじゃダメだよ。実践あるのみ!」
「実践…」
「俺が付き合ってやるからさ。ちょっとやってみようよ」



と、まあ…勘ちゃんの提案で、俺は裏山に来た。もちろん、薙刀を持って。勘ちゃんは忍刀を持ってきた。

裏山の中腹あたりに、ちょうど良く開けた場所があり、そこで修行を開始した。



「――そうそう、右手の力を抜いて…相手の攻撃を受け流す」
「む、ぐぐッ…あっ」



ドサッ



勘ちゃんの攻撃を受け流すため、右手の力を抜いた。そしたら倒れかかる勘ちゃんを避けきれず、しりもちをついてしまった。

…いったいどうやったら、上手く避けれるんだろう。



「ダメだよ、もっと早く動かないと」
「わかってるけど…」
「雅は女の子だから、どんなに筋トレやったって男には敵わない。力で勝とうとしちゃ危ないよ」
「男女の差は絶対越えられない壁だな」
「そーいうこと。雅は、スピードと身軽な動きで勝負しなきゃね」



スピードと、身軽な動き…
…じゃあ、まず素早く動いたり、軽やかに動けるようにならないといけないのでは…



「わかった?」
「え?」
「今、何が必要か」
「!」



か、勘ちゃん…
何も考えてないようで、案外考えてるんだね…見直したよ…



「じゃ、頑張って」
「えっ勘ちゃんどっか行っちゃうの?」
「うん。俺、これから委員会だから」
「あ、ああそっか。ありがとう、勘ちゃん」
「どーいたしましてー」



勘ちゃんは、手を振って去っていった。俺は、本と得物を持って、練習場へ向かった。

スピードを上げるには、とにかく筋肉をつけて、動きの幅を広げなくてはならない。

そう思って、練習場で薙刀を構えた瞬間――



「ぁ…」
「、作…」



まだ少し赤い目を大きく見開いた作兵衛が、こっちを見て動きを固めていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ