恨み辛みの果て

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「…どうした、こんな山奥に1人で」
「先輩…」



いつものように、左門と三之助を探しに来た。学園にはいなかったから、裏山の方だと思ってたのに。そこにいたのは迷子達じゃなくて、雅先輩だった。

修行中だったらしい先輩は、得意の薙刀を持っていた。手には包帯、頬にはガーゼをしていて、とても痛々しい。



「左門と三之助を探してるのか?」
「…はい」
「そっか、ご苦労様。一緒に探そうか?」
「結構です…」



今は、一緒にいたくねぇ。この前のこともあるし、気まずい。

でも、正直嬉しかった。冷たくされるかもしれねぇって、思ったから…
いつもの優しい声で、話しかけてくれて…

それなのに、俺はつっけんどんな返事を返すことしかできねぇ。



「あんまり無理すんなよ。熱出たんだろ?」
「!」
「藤内から聞いたよ。…悪かったな」
「えっ…」



どうして、謝るんだよ。
あの時、情けないぐらいすがりついたのは俺だ。先輩をどこにもやりたくない一心で困らせた。



「作兵衛の気持ちを知っていながら、あまりにも酷いことを言ってしまった。本当に、申し訳ないと思ってるよ」



…じゃあ、止めてください。
そんな風に謝るんだったら、忍術なんて学ばないでくれよ。

さっきまで穏やかだった気持ちが、また沸々とどす黒く醜いもので覆われていく。



「…あれから、気持ちは変わってないんですか」
「変わらないよ」



“変わらない”

その言葉は、重く心にのし掛かった。先輩はもう、俺の言葉に心を動かしてくれない。俺を見てくれない。愛してくれない。

この人の頭には、忍術を学ぶことと元の世界に帰ることしかねぇんだな。



「…その怪我、」
「え?」
「修行でついた傷…」
「ああ…」



何があっても諦めないって、決めただろ。全体に先輩を取り戻すって、そう思ってたじゃねぇか。

それなのに、もう無理な気がしてきたんだ。この人の心に、俺が入り込む隙間なんかねぇんだよ。

今の先輩と俺は、ただの先輩と後輩っつー関係に戻っちまった。それだけは、避けたかったのに。



「先輩は、もう…俺をただの後輩としてしか…見てないんですね…」
「……作兵衛…?」
「…先輩は、ズルいです…いつもそうだ…俺の気持ち知ってるくせに知らねぇふりして。それなのに最後に“愛してる”って、言い逃げして…戻ってきたら忘れちまってるなんて…本当に、残酷な人だ…」
「………ごめん…」



謝るなよ。謝るくらいなら、思い出してくれっ…



「先輩がそうやって謝る度に、俺は辛くなるんです…!“もう愛してない”って言われてる気がしてっ…苦しくてっ…」
「作…」
「先輩なんか大嫌いだ!!さっさと元の世界に帰れよ!!」
「…、…うん…」



俺を見てくれないのなら、早く元の世界に帰ってくれ。痛くて、苦しくて、息をするのも辛ぇんだ…



先輩と目を合わせられなくて、俺は先輩に背を向けて走った。雨も降っていないのに頬が濡れ、目の前がぼやけた。



諦めないといけねぇのか…?
先輩と一緒にいちゃいけねぇのかよ…
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