恨み辛みの果て
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「雅、考え事をするのなら、指導は無しにするぞ」
「あッ…ご、ごめんなさい…」
立花先輩に指摘され、はっとした。今は立花先輩と修行中だったのに、ボーッとしていたようだ。
俯きがちに謝ると、鼻で笑われた。
「悩みなら、私が聞いてやろう。こっちへ来い」
「え、ちょっ…」
手を引かれて来た先は、静かな裏庭の木陰だった。木の根の部分に座り、隣に立花先輩が座った。
立花先輩は座り方も優雅でした…
「さて、何を考えていた?」
「…別に、考えていた訳じゃなく…」
「ふっ…三郎から聞いたぞ。作兵衛といざこざがあったらしいな」
「ちょっと三郎殺してきます」
なんつー余計なことを言ったんだあの変装バカは。まあ、今の俺の実力じゃ返り討ちにあうのが落ちなんだけどさ。
「私としては、その方が好都合なんだがな」
「ぅへ?」
「こちらの話だ。それで?何を悩む必要がある」
話を聞いてくれるのはいいけど、何でこの人は肩回してくんの?なんか恋人みたいになってんですけど。
文句ありありの顔をして睨み付けたら、鼻で笑われた。けど、すぐ真顔に戻った。
「…あまり、否定的になるな」
「え、」
「お前の悩みなど、お見通しだ。言っただろう、三郎から話は聞いていると」
「ああ…」
俺は他に何を話したっけ。
頭の片隅で記憶を探りながら、空を仰いだ。
「あ、」
「何だ?」
「いや、思い付きました」
「は?」
「元の世界に帰る方法」
ひゅっと、立花先輩が息を飲む音がした。
空を見て思い出したんだ。前に藤内から聞いた、天女の話。あの天女は、“雅”が死んだ次の日に消えた。もしかしたら…
「立花先輩、天女がどうやって元の世界に帰ったかご存知ないですか?」
そうだよ。何で今まで気づかなかったんだ。天女だって、俺と同じ平成の人間だ。天女が戻ったなら、俺だって戻れる。
「悪いが、私は知らない」
「え、ああ、そうですか…」
「だが、留三郎なら…知っているのではないか…」
「とめ先輩が?」
じゃあ、とめ先輩を探さなきゃ…
いや、用具倉庫にいるんだろうな。やっぱり、同じ用具委員会の先輩だから、“雅”のことは良く知ってるだろうし…
「…、」
――――――…
ガシャンッ
「は、ぁ…?」
「…?」
立花先輩との修行を終え、用具倉庫に来た。そこにはとめ先輩しかいなくて、少しホッとした。
早速本題に取りかかったら、先輩は目をカッと開いて持っていた手裏剣の箱を落とした。そして、力ない声を出す。
き、聞いてはいけなかっただろうか…
天女はみんなにとって嫌なものだからな…
なんてデリカシーのない奴なんだ自分。
「えっと…すみません…答えにくいことなら別に…無理には…」
「…………………だ…、」
「えっ?」
「………死んだ……天女…は…死んだんだ…」