泡沫ノ恋

□fifth.
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「2年2組の遊佐尚之(ゆさなおゆき)…美術部所属で非常に温厚な性格。普通にいい人みたいよ」
「で、でも本当に変な感じがしたんだよっ」



私は、さっきのことを照代ちゃんに相談していた。ちなみに、場所は照代ちゃんの部屋だ。今日はお泊まりの約束をしていたから、荷物もちゃんとある。



「ストーカーだったりして」
「脅かさないでよ…」
「ごめんごめんっでもまぁ…気にしすぎよ。富松あんちくしょうとの事がトラウマになってんじゃない?」
「そんなんじゃないけど…その“あんちくしょう”って止めてあげなよ。富松くん可哀想だよ」
「どこも可哀想じゃないわ!」



照代ちゃんは、私が富松くんを庇う発言をすると怒る。私のことを心配してくれているのはわかるけど、あまりにも不憫でならない。



「遊佐がもしストーカーなんかになったら、私があんたを守るわ」
「ありがとう、照代ちゃん。でも、まだ確定した訳じゃないし…」
「そうね。しばらく様子を見ましょう」



それから、私は夕飯をご馳走になり、お風呂に入った。もちろん私は照代ちゃんの後に入ったよ。

部屋に戻ったら、布団は既に用意してあった。



「ごめんね、全部用意させちゃった…」
「いいのよ。そういえば、メールが来てたわよ」
「メール?」



言われた通り、私の携帯はチカチカと光り、メールを受信したことを示していた。開いたメールの差出人には、遊佐尚之の名前…

少し緊張しながら内容を見た。



“今、何してるの?”



普通の内容だ。無駄に緊張した自分がアホらしくなる。



「遊佐から?」
「うん。今何してるのって…」
「そんなこと遊佐には関係ないじゃない。適当に家で勉強してるとか言っといたら?」
「そんな嘘言っていいのかなぁ…」
「なーに良い子ちゃんみたいなこと言ってんのよ。学生のお泊まりは校則で禁じられてんだから、バレたら怒られるじゃない」



そうか、それもそうか。



“家で勉強してるよ”



たった一言だけど、当たり障りない感じでいいと思う。“送信しました”の文字を確認して携帯を置くと、照代ちゃんが用意していてくれたトランプを手にとった。



「じゃあ、最初は無難にババ抜きからよ」
「うん。照代ちゃんからどーぞっ」
「じゃ、遠慮なく」



ちょうど、照代ちゃんがスペードとクローバーの4を出した時だった。枕元に置いてある携帯から着信音が流れ始めた。ディスプレイには“遊佐尚之”と出ている。



「て、照代ちゃん…」
「…出て出て」
「うん…」



携帯を耳に当てると、遊佐くんの声が聞こえた。



『もしもし、天津さん?』
「うん、どうしたの?」
『ううん、特に用はないんだけど…勉強って、部屋でやってるの?』
「えっ…どうして…?」
『部屋に明かりが点いてないからさ。リビングでやってるのかと思ったんだけど、お父さんしかいないようだから…』



ちょっと待って。
どうして、私の家を知ってるの。
どうして、今見てるような言い方なの。
どうして、私んちの部屋の位置を知ってるの。



「ゆ、遊佐、くん…今どこにいるの…?」
『え?自分の家だよ』
「そ、そっか…あのね、私台所にいるの…勉強の息抜きに夕飯の片付けやってて…もう切るね」
『そうか、残念だな。もっと君の声を聞いていたいんだけど…じゃあね』
「うん、じゃあね…」
『あ、そうだ。天津さん、嘘はもっと上手につかなきゃね。ババ抜きも負けちゃうよ』
「えっ!?」



電話が、切れた。けど、震える手が言うことを聞いてくれなくて、携帯が離せない。



「雅…?」
「っ…あ…て、照代ちゃん…」



ババ抜きをしてたことまでわかっていた。まさか、彼は今…すぐ近くに…―
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