泡沫ノ恋

□eighth.
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「あっ富松く、ぎゃぶッッ!?」



どうも。
思いっきり転んだ雅です。もうね、自分の足に引っかかってね、顔面から廊下に倒れたわけよ。

痛いし恥ずかしいしでもう顔上げられない。



「雅…!?」
「…もう何やってんのよあんたは」



照代ちゃんが起こしてくれて、何とか立ち上がったけど…恥ずかしくて富松くんの顔見れない。こんな登場の仕方、絶対アホな奴だと思われた。



「だ、大丈夫か?」
「大丈夫だよっあの、あのね!これっ…この前の、お礼…大したものじゃないけど…」
「え、」
「そっそれじゃ!」
「あ、ちょっ…」



とりあえず勢いで可愛くラッピングしたお菓子を渡し、ダッシュで逃げた。いらねぇばかやろうとか言われたら確実に心折れる。優しい富松くんがそんなこと言うわけないけど、返事とか聞く勇気ない。もう顔から火が出てる。出そうとかいうレベルじゃない。出てる。



「…あのね」
「何も言わないで照代ちゃんっ」
「……まったく…」



今なら松千代先生みたいに巧みに隠れられると思う。どうしよう恥ずかしい。なんだこれ。めちゃくちゃドキド…いや、ばっきゅんばっきゅん言ってる。寿命が尽きるのかな…























――――――…



「……あ゙ー…何であんな可愛いんだよ…可愛すぎて死ねる…俺を殺す気だ!絶対ぇ俺のこと恨んでるに違ぇねぇっ…………でもやっぱ可愛い…」






「…何だよあれ。鬱陶しい」
「…ぅ…うーん…」



孫兵の意見は最もだ。

昼休みに屋上に集まったら、なんか作兵衛が悶えていた。手には可愛いラッピングのお菓子を持って、ため息をついて顔を真っ赤にしては、次の瞬間青ざめてガタガタ震える。

話によると、そのお菓子は朝に雅ちゃんからもらったとか。納得…



「手作り…だよな…?コンビニの菓子の礼が手作り…っ…か、可愛すぎるっ……………いやでも…毒入りだったら…」
「そんな訳ないだろ。いいから食べなよ」



これだから作兵衛の妄想癖は困るんだ。ありもしないことをあれこれと…

雅ちゃんが毒を盛るはずないだろ。僕らみたいに、毒の知識もないだろうし。…憶えてないだけだろうけど。



「たっ食べるなんて勿体ねぇだろ!」
「食べずに腐らす方が勿体ないと思うけど」
「う、うるせぇぞ三之助!」
「作兵衛が食べないなら僕が食べてやろう」
「やめろ頼んでねぇ触んな!」



触られたくないならさっさと食べろよ。作兵衛の初な反応も、最初こそ微笑ましいものだけど、それが長くなればなるほど腹立つ。雅ちゃんが作ったものを無駄にしたら、僕が怒るよ。



「…帰ってから食べんだよ…」
「あっそ。じゃあさっさとしまってくれ。見ててムカつく」
「藤内のいう通りだよ。毒入りなんて、雅が可哀想だろ」



全員が輪になって座り、それぞれのお弁当(と言っても全員同じものだけど)を食べ始めた。何でこいつらはいつも騒がしいのに、ご飯を食べる時は静かなんだよ。尊敬するよその切り替え。



「えー…ゴホンッ…」
「どうした数馬。風邪か?」
「…左門、ちょっと黙ってて。みんな、話があるんだ」
「…話?手短に頼むぜー」



僕はお弁当を置いて、みんなを見回した。作兵衛がまたお菓子を見つめてたのはもう無視だ。



「予想外にも、こんなに早く作兵衛と雅ちゃんの距離が縮まった」
「ああ。雅が心の広い奴でよかったな。な、作兵衛」
「嫌味か…」
「あの時ちゃんと段階を踏んでれば、今頃恋仲になってただろ」
「…」



藤内の言葉に、作兵衛は押し黙ってしまった。別に、作兵衛を責める会じゃないんだから…



「それは置いといて。とにかく、もう少し強引にいこうかと思って」
「結婚か!」
「いや子作りだろ」
「お前らのそれは少しなのか!?本当に少しなのか!?」
「落ち着きなよ、数馬」



藤内に抑えられ、ぜぇぜぇと荒い息を整えた。

こいつらは思考まで迷子なのか!?まさかとは思うけど、もし万一こいつらに好きな人ができたら、その人はいきなり結婚させられ、孕ませられてしまうのでは…?



「数馬、本題に入ってくれ」
「あ、ああ…そうだね。積極的にっていうのは、雅ちゃんともっと親しい仲になろうってこと。強いては、こうやって昼休みの時は一緒にご飯を食べようってことだ」



着実に、僕達は雅ちゃんに近づいているから。
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