泡沫ノ恋
□nineth
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「はぁっはぁっ…と、富松くん!どこに向かってるの!?」
ど、どうしよう…
学校から飛び出してきちゃったけど、富松くんは一向に立ち止まらない。それどころか、電車に駆け込んで街にまで来てしまった。
「脅して消させたとはいえ、もしかしたら電話してくる奴がいるかもしれねぇ」
「あ…あれは私がやったんじゃなくてっ…」
「わかってる。雅は、そんな事する人間じゃねぇよ」
「!」
そう言って、富松くんは私の頭を撫でた。さっきまで冷静でいたのに、富松くんの優しさについに涙が溢れた。
「ぅおっ!?ちょっな、泣くな!なんか気にさわること言ったなら謝るからっ」
「ふっ…う、ううん…違うのっ…信じてくれて…嬉しいんだよ…」
「…っ!」
見覚えのない落書きを、クラスの大半が私が書いたものだと思ったはずだ。だから、富松くんや照代ちゃんも私を嫌いになってしまうと思った。
けど、富松くん達は信じてくれた。それが嬉しくて…
「学校サボって女を泣かせてる奴発見!」
「!?」
「け、食満先輩!」
突然声をかけられ、振り返った先には背の高い男の人がいた。どうやら富松くんの知り合いらしいけど、“富松くんの”ってことはやっぱり極道な…?
「可愛い子捕まえたな。彼女か?」
「ゔっ…ち、違いますよ…。そんなことより、食満先輩に頼みがあって来たんです!」
「ほお、俺に頼み?何だ?」
優しそうな人だなぁ、なんて見ていたら、目が合ってしまった。食満さん?は笑って私の頭を撫でた。
「――という訳なんです」
「なるほどな。雅、だっけ?」
「あっ…はい…」
「安心しろ。バカな野郎共がお前に手出しできないようにしてやる」
「あ、ありがとうございます…」
ちなみに、私たちは路地裏にひっそり佇むおしゃれなカフェにいた。学校をサボって街に来ているのがバレないようにと、食満さんが配慮してくれたのだ。
「それと、これ」
「?これは…」
「暫くその携帯を預かりたいんだ。だから、代わりにこっちを使ってくれ」
「で、でも…」
渡されたのは、水色の携帯だ。どうしたら良いのかわからなくて富松くんを見たら、笑って頷いていた。
食満さんから携帯を受け取り、私の携帯を渡した。
「雅の携帯にかかってきた電話の回線を辿って、雅の居場所と、電話してきた奴の居場所を特定できるようにする。だが、プライベートな電話もあるからな。知らない電話番号か非通知だったら、1を押してから通話すれば俺のパソコンに繋がる。携帯は、1週間後には返せると思うぞ」
む、難しい…
つまり、私に変な電話があったらすぐわかるってこと…かな?
「ありがとうございます、食満先輩」
「ああ。1週間後、またこのカフェに来い。ただし1人ではダメだ。絶対に作兵衛と一緒に来るんだからな」
「は、はい…」
物凄い念を押されて、私は頷くしかなかった。
それから、家の前まで富松くんが送ってくれて、何かあったら電話するようにと言ってくれた。
…極道の人って、案外優しい人が多いのかな…