泡沫ノ恋
□tenth.
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富松くんと一緒に登下校するようになって約1週間が過ぎた。富松くんのおかげで、私は何事もなく平和に暮らせている。
そんな平和な日の帰り道――
「富松くん、いつもありがとね」
「何だよ急に」
「だって、富松くんのおかげで平和な毎日を送れてるし……何かお礼しなきゃ」
「んなこと気にすんな。俺が勝手にやってることなんだから」
「ダメだよ!何かして欲しいことある?欲しいものとか、何でもするよっ」
本来なら、「いつもありがとう」って何かを上げるべきなんだろうけど、富松くんの好きなものとかわからなかったから…
私が聞くと、富松くんは少し悩んだあと、赤くなって頬を掻いた。
「………呼び方…」
「えっ?」
「…その、…あー………名前で……呼んでくれねぇか…?」
「……!」
今度は私が赤くなる番だった。
富松くんとしか呼ばないから、名前を呼ぶなんて…
は、恥ずかしい…
「えっと………じゃあ…作…?」
「!!」
お互い立ち止まって、黙りになってしまった。富松くんが赤くなるから私も照れちゃうなぁ…
「ん?雅じゃないか」
「「ッ!?」」
2人で声の方を見た。
「お父さん!」
そう、そこに居たのは私のお父さんだった。買い物袋を持っているということは、買い物帰りかな…
今日はお父さんが夕飯当番だった。
「とっ富松さん!娘がお世話になってます!雅が無礼を働いてないでしょうか!」
「は、」
「ちょっと、お父さん…みっともないよ」
お父さんはぺこぺこ頭を下げて、周りから見たら変な人だ。高校生に頭を下げる社会人って、シュール以外のなにものでもない。
でも、富松く……作って極道の次期お頭だし…
「もう安全だな。…雅、また明日な」
「あ、うん!ありがとう」
「朝、いつもの時間に迎えに行くから」
「うん」
そこで、作とは手を振って別れた。
それからお父さんとご飯作ったりした。
こんないつも通りの生活が幸せで、すごく嬉しい。