新訳ミツバ篇
□第11章
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思わず言葉を失った。
いや、もともと言葉を話すつもりは無かった。
土方に殴りかかりにいく気が失せた、という方が正しいだろう。
俺は木の影からそっと顔をのぞかせた。
そこには、もうスタスタ歩き出している土方の姿。
その帰り際、ギリギリ耳をすませば聞こえるぐらいの声の大きさで、土方はつぶやくように言った。
土方『しらねーよ。
しったこっちゃねーんだよ、お前のことなんざ。』
*
土方『しらねーよ。
しったこっちゃねーんだよ、お前のことなんざ。』
あのときとまったく同じことを言う土方。
思わず昔、土方が庭にきていたあの時の嫌な思い出と、今を重ね合わせちまう。
土方と斬りあって、ボロボロになった体は地面に倒れこみ、なかなか起き上がれない。
そもそも、なんで腕が鈍っていたか分からない。
ただ無我夢中に竹刀を振り回した結果がこれだった。
土方の名前を叫ぶように呼び、斬りかかったのはいいものの、敗けだった。
「土方ァァァァ!!」
そう叫んで飛び掛かった、数分前の自分が頭によぎる。
俺も土方もお互いに傷だらけの状態。
土方は再びタバコに火をつけて、歩き出す。
総悟『気に…くわ…ねェ。』
地面に倒れたまま、俺は土方の後ろ姿を睨み付けてそう言った。
空にはもう月が昇っている、夜のことだった。
*