生徒K.H

□初めまして、先生
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「今日から野田先生に代わり、
卒業までの一年間、担任を持ちます松坂みゆです。

よろしくお願いします。」













桜が舞いながら
暖かな風柔らかな空気を運んでくる今日、



私は担任代理として

3-1にやって来た。




野田先生は育児休暇もあるため
実質、新学期早々に担任が変わったことになる。





挨拶が終わるやいなや

「彼氏いますかー」

「バストはー?」

「おやつにバナナは入りますかー」




などと
まぁ馬鹿馬鹿しいというか学生らしい質問が矢のごとく飛び掛かってきた。






実は担任を持つのは初めて。




正直嬉しくて仕方ない。










朝のSHRを終えて、


早速生徒の座席と顔を照らし合わせて
すぐに頭に入れる。




人の顔と名前を一致させるのは苦手だから
地道にやるしかない。










「……あの、松坂先生。」






教卓で名簿をチェックしていると


色白で顔立ちの整った男子生徒が立っていた。






目だけを瞬間的に動かして名前を確認する。










「なぁに、本郷君?」













なるほど、彼は本郷奏多君だ。






本郷君は私の顔を覗き込みながらにっこり笑って




「僕がクラスの代表委員だって……野田先生から聞いてました?」



「え?」







私は慌てて名簿下に挟んでいた委員名簿を開いた。








まず顔を覚えようとしていたから委員名簿まで見ていなかった私は


代表委員の欄に「本郷奏多」の名前があることをたった今知った。












「本当だ……。」



「何かあれば僕を使ってください。朝のプリント運びとか、僕がやりますから。」



「あ、そうだったんだ。じゃあ明日からお願いしようかな。」





そう言うと本郷君は「はいっ」と子犬みたいにまた嬉しそうに笑った。












「あ、そうそう。」





ころっと彼の表情が変わって

いきなり真面目な顔になった。









……あ、


カッコイイじゃん。








「先生、……彼氏いますか…?」





教卓から身を乗り出して

端正な顔が近付く。








綺麗な、

でも冷めたような瞳に吸い込まれそうになる。












「…いない、けど………」






「………そう、ですか…」











本郷君は姿勢を戻して


またにっこり笑いながら
「じゃあ、また授業の時に。」
と言って

自分の席に戻って行った。








今日、このクラスで授業があるのは


1番最後の6時間目だったかな。



なんて思いながら





私は名簿を仕舞って職員室へ戻った。













初めまして、先生






(「奏多ぁ、お前みゆ先生と何話してたんだよー」)

(「秘密。…てか気安くみゆ先生とか呼ぶなよな。」)

(「……え、奏多まさか……」)

(「好きになっちゃったみたい、先生のこと。」)







End.

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