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□恐い夢と甘いキス。
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ぽろぽろと。

ラピルの目から涙が零れる。

滅多に感情を顔に出さない彼女が、

ましてや人に涙を見せない彼女が、

「…ラピル…?」

眉尻を下げて、泣いていた。

「お、おいラピル?」

ゼオンが驚いた様子でラピルを見る。

「ゼ、オン」

ぽつりと呟く。
と同時に、ゼオンに抱き着いた。

「ゼオン、ゼオン、ゼオン、ゼオン」

何度も、何度も。

ゼオンの名を呼んだ。

それはまるで

母を失った幼い子供の様で。

「…どうした?ラピル」

「いかないで、よ」

「…?」

「僕と一緒にいてよ」

「ラピ、」

「僕を独りにしないで」

ぎゅう、と腕に力が入る。

ゼオンは一度ラピルの体を離した。

そして、ゆっくりとラピルを見る。

「…どうした?」

静かに問うと、
ラピルが尚も涙を流しながら答えた。

「夢、を見た」

「…あぁ。」

「ゼオン、が、僕、から離れていってしまう、んだ」

途切れ途切れに。

それを思い出すかの様に、
哀しそうにラピルは目を伏せる。

「…そうか」

それだけ言うと、
ゼオンはラピルを抱き締めた。

強く、優しく。

ここにいる、と示すように。

「ラピル」

「…ん」

「オレはお前から離れたりしない」

「ん」

「独りにしない」

「ん」

「ずっと一緒にいてやる」

「ん」

「恐い夢見たら、いくらでも抱き締めてやる。」

「ん」

ゼオンをラピルの頬に手を添え、

優しく、口付けた。

「…ゼオン」

「なんだ?」

「僕、ゼオンがいれば何も要らない」

そう言って幸せそうに笑ったラピルは、

今までで一番綺麗だった。


恐い夢甘いキス。
(恐い夢を見た時は)
(王子様の甘いキスを…)

 

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