10万打企画 BOOK2

□愛されて
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「お初にお目にかかります、小野妹子と申します、以後お見知り置きを…この度は天皇に代わり新年のご挨拶をと…」
「わざわざこんな辺境の地までご苦労様、面を上げよ」

御簾の向こう側から聞こえてきた声に、思わず目を見開く
しかしハッとして、すぐに姿勢を正し誤魔化した

(何故だろうか、この屋敷の者達の視線は、恐ろしい)

あまりの幼さに、動揺が抑えきれなかっただけなのだが、妹子は心の中で「話と違うじゃないか!」とウザい上司を罵った

『崇峻天皇の親族なんだが、なかなか気難しい女性でな、うん、まあ気をつけて』

何が女性だ、声を聞く限りか弱い少女にしか見えないではないか(お顔は拝見してないが)

「…新年の挨拶だなどと、連中何を目論んでいるのやら」
「え?」

パチン、と
扇子を閉じる音がした

「都から追い出してまで私を遠ざけた事、お忘れのようだ」

何の、話でしょうか…?

そう尋ねると静まり返る室内

「………」

本当に、何の話をしているのか分からない

暫くすると、するすると上がる御簾
慌てて頭を下げた

畳を歩く音がする…

近くで止まったかと思うと肩に手を置かれ、囁くように呟いた

「もっとよくお顔を見せて」
「あ、あの…っ」

目の前にあった顔を見て、今度こそ驚きを隠せなかった

なんて、美しいのだろう

幼い声とは裏腹に、大人びた顔立ち
艶やかな瞳、頬に影を差す睫毛
白い肌に映える真紅の着物

肩に置かれたままの手がゆっくりと顎に添えられ、擦られた

まるで猫のような扱いにも、言葉など出ず
ただひたすらに見入った

「なるほど綺麗な顔だこと……さて、あの女狐が一体何を考えているのか…洗いざらい吐いてもらうとするか」

臣下の腰から一振りの刀を奪うと、その切っ先を妹子の喉元に突き付け、笑った

「私はお前のような美しい生き物が嫌いでな、殺したくなる」
「………」
「どうした?恐ろしさのあまり口がきけぬか」
「……貴方に比べれば僕など…」
「口の巧い男は嫌いじゃ」

力任せに畳に刀を突き刺す

「さあ、吐け…何が目的だ、あの女狐は今更何を奪おうというのか、何もかも失った私から、今更何を奪うというのか…」
「………」

何故か、泣き出してしまうように思えた

実際、瞳は潤んでいたし(元からだったろうか)
空いている方の手が今にも殴りかかってきそうな程に震えていた

「………天皇を恨んでおいでなのですね」
「当たり前だ!何故私だけがこのような扱いを受けねばならぬ?崇峻天皇はお隠れあそばし…崇峻天皇と親しかった父は一族諸とも殺された…何故?…残された私は…独り、日々寂しさと戦いながら、あの女への憎しみのみで生き続ける…」
「………」

ああ、やっと分かった

太子がここに来れない理由も
僕が代わりにこの屋敷に遣わされたのも

全ては、目の前の女性の為

立ち上がりそっと抱きしめる

「何の真似だ」
「お気の済むまで泣けば宜しいかと」
「……誰が、泣くものか」
「ではこの愛らしい頬を濡らすこれは、一体何なのでしょうね」
「………」



変わった奴だ…













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