おしえて!わかしせんせー!
□始まりは不安に包まれて
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歩最高校。
私立の男子校だ。
今日から俺が働く場所。
教師になりたい、そんな夢を持ち、今まで過ごしてきた。
最近になって、やっと兄に打ち明けたが、異常なほど反対された。
それでも…粘りに粘って叶えた夢。
そう。結局、あの人は、俺に甘いんだ。
それに…やっと…アイツから離れられる。
家からこの高校までは、割と遠くて。
車で通うのも面倒なので、近場のアパートに住むことになった。
そのおかげで…アイツと…幼なじみと、離れられる。
*
体育館で、教師と生徒との対面式が行われる。
俺は、新米教師ながら、1-4の担任を任せられているから、自分のもつ生徒に会うのが楽しみで仕方ない。
学校に着き、職員室に入った途端、周りに挨拶をしつつ、副担任の姿を探す。
が、見つからない。
一度顔合わせはしていたから、姿が見えないことに不思議に思い、途方に暮れる。
もうすぐ、対面式は始まってしまうというのに。
「日吉先生」
自分の机の前で突っ立っていれば、声をかけられた。
「!…校長先生?」
どこか困ったように眉を下げ、名前を呼んだのは校長だった。
「少し話があるから、校長室に来てくれるかな?」
「はい」
副担任についてだろうか。
気弱そうな校長の、浮かない表情に、胸騒ぎを覚えつつ、校長室に入った。
*
「…え?」
「…副担任の先生が…急に仕事ができなくなってしまって…代わりの先生は既に頼んでいるから、少しの間、クラスの生徒の面倒は1人でみてもらうことになるんだけど…」
校長室で告げられた一言に、呆けたように言葉を紡げば、校長が繰り返す。
「…はい。」
「急なことで…すまないね」
「いえ」
「多分1週間もしないうちに、新しい副担任の鳳先生が来てくれるから…」
「……………はい?」
*
対面式に間に合わない、と校長に急かされ、体育館に入っても、頭の中で渦巻くのは一つのこと。
信じられなかった。
信じたくなかった。
鳳先生…鳳…鳳…長太郎。
苗字しか聞いていないが、珍しい苗字だ。
幼なじみの…アイツだと考えて間違いないだろう。
そればかり考えていたせいか、俺を見る、生徒たちの熱のこもった視線には、全く気づかなかった。
『好きだよ…俺の若』
アイツの声が耳に甦り、小さく息を吐いた。
*
騒がしい教室の戸を開ければ、ガラッと、思いの外大きな音がした。
クラス中の生徒から注目され、焦って、教卓に向かえば、段差に躓きそうになる。
恥ずかしい。
顔を赤らめれば一番前の席に座っていた生徒に微笑まれた。
「せんせ、俺、滝っていうんだ。覚えてね」
「若にいっ!」
綺麗に笑みを浮かべる滝に気をとられていると、そのすぐ隣から、聞き覚えのある声がした。
「え…蛍!?」
そこに居たのは、いかにも不良です、というような風貌の俺の従兄弟だった。
まだ中1のときに会ったときも、少しチャラい格好はしていたけど…その時以上に派手な格好。
そして何より目を惹いたのは…
「髪…染めたのか?」
地毛が茶色いから、とヘラヘラ笑って自慢していた、幼い蛍の姿を思い浮かべ、違和感を感じる。
確かに綺麗だったその髪は、まるで俺の髪と同じような、金と茶の中間の色になっていた。
「気づいてくれたんだ」
へら、と笑ったその表情だけは、変わっていない気がした。
「おい」
「…?」
と、左端の列の美形から声をかけられた。
思わずまじまじと見てしまう。
日本人離れした顔、青い瞳、どこか色気を醸し出す、右目の下の泣きぼくろ。
「いつまでみとれてんだ?アーン?」
「み…みとれてなんか…」
「…フン。早くHRを始めろ」
…タメ口かよ。
何だコイツ。
「じゃあ…始めるぞ。号令」
「起立!」
ってお前かよ!
号令をかけたのはタメ口を聞いた先程の美形だった。
…コイツがクラス委員長か?
結局、HRが始まってからも、上手くやっていけるのか不安が募り、生徒の自己紹介もほとんど頭に入らなかった。
…やっていけるのか…俺。