おしえて!わかしせんせー!

□始まりは不安に包まれて
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歩最高校。
私立の男子校だ。
今日から俺が働く場所。

教師になりたい、そんな夢を持ち、今まで過ごしてきた。

最近になって、やっと兄に打ち明けたが、異常なほど反対された。

それでも…粘りに粘って叶えた夢。

そう。結局、あの人は、俺に甘いんだ。

それに…やっと…アイツから離れられる。

家からこの高校までは、割と遠くて。
車で通うのも面倒なので、近場のアパートに住むことになった。

そのおかげで…アイツと…幼なじみと、離れられる。




体育館で、教師と生徒との対面式が行われる。

俺は、新米教師ながら、1-4の担任を任せられているから、自分のもつ生徒に会うのが楽しみで仕方ない。

学校に着き、職員室に入った途端、周りに挨拶をしつつ、副担任の姿を探す。

が、見つからない。

一度顔合わせはしていたから、姿が見えないことに不思議に思い、途方に暮れる。

もうすぐ、対面式は始まってしまうというのに。

「日吉先生」

自分の机の前で突っ立っていれば、声をかけられた。

「!…校長先生?」

どこか困ったように眉を下げ、名前を呼んだのは校長だった。

「少し話があるから、校長室に来てくれるかな?」

「はい」

副担任についてだろうか。

気弱そうな校長の、浮かない表情に、胸騒ぎを覚えつつ、校長室に入った。



「…え?」

「…副担任の先生が…急に仕事ができなくなってしまって…代わりの先生は既に頼んでいるから、少しの間、クラスの生徒の面倒は1人でみてもらうことになるんだけど…」

校長室で告げられた一言に、呆けたように言葉を紡げば、校長が繰り返す。

「…はい。」

「急なことで…すまないね」

「いえ」

「多分1週間もしないうちに、新しい副担任の鳳先生が来てくれるから…」

「……………はい?」



対面式に間に合わない、と校長に急かされ、体育館に入っても、頭の中で渦巻くのは一つのこと。

信じられなかった。
信じたくなかった。

鳳先生…鳳…鳳…長太郎。

苗字しか聞いていないが、珍しい苗字だ。
幼なじみの…アイツだと考えて間違いないだろう。

そればかり考えていたせいか、俺を見る、生徒たちの熱のこもった視線には、全く気づかなかった。

『好きだよ…俺の若』

アイツの声が耳に甦り、小さく息を吐いた。



騒がしい教室の戸を開ければ、ガラッと、思いの外大きな音がした。

クラス中の生徒から注目され、焦って、教卓に向かえば、段差に躓きそうになる。

恥ずかしい。

顔を赤らめれば一番前の席に座っていた生徒に微笑まれた。

「せんせ、俺、滝っていうんだ。覚えてね」

「若にいっ!」

綺麗に笑みを浮かべる滝に気をとられていると、そのすぐ隣から、聞き覚えのある声がした。

「え…蛍!?」

そこに居たのは、いかにも不良です、というような風貌の俺の従兄弟だった。

まだ中1のときに会ったときも、少しチャラい格好はしていたけど…その時以上に派手な格好。

そして何より目を惹いたのは…

「髪…染めたのか?」

地毛が茶色いから、とヘラヘラ笑って自慢していた、幼い蛍の姿を思い浮かべ、違和感を感じる。

確かに綺麗だったその髪は、まるで俺の髪と同じような、金と茶の中間の色になっていた。

「気づいてくれたんだ」

へら、と笑ったその表情だけは、変わっていない気がした。

「おい」

「…?」

と、左端の列の美形から声をかけられた。

思わずまじまじと見てしまう。

日本人離れした顔、青い瞳、どこか色気を醸し出す、右目の下の泣きぼくろ。

「いつまでみとれてんだ?アーン?」

「み…みとれてなんか…」

「…フン。早くHRを始めろ」

…タメ口かよ。
何だコイツ。

「じゃあ…始めるぞ。号令」

「起立!」

ってお前かよ!

号令をかけたのはタメ口を聞いた先程の美形だった。

…コイツがクラス委員長か?

結局、HRが始まってからも、上手くやっていけるのか不安が募り、生徒の自己紹介もほとんど頭に入らなかった。

…やっていけるのか…俺。
 

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