名も無き世界

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「ん....っはぁ.....!!」
悪夢を見たあとのような呼吸の乱れ。そして、いつも通りに学校から帰った。


そして今日も、センセレスへ。

昨日は、小学校でマーダーに会ったからと思って、反対方向へひたすら歩き続ける。

足が痛み始めたころ。
「ご主人様。ご要望ならば日本中どこでもいけますににゃよ?」
ふと足を止める。
「本当?!」
そうワクワクしながら尋ねると、自慢げに尻尾を振るルミ。

「じゃあ、京都に!」
ルミに言われ、目を瞑り、心の中で"京都京都京都・・・"と思い浮かべる。

目を開けると、
            やってきました京都!!

さすが京都とあって、田舎の家周辺とは違い、人がたくさんいた。

「たしか、喋っちゃだめなんだよね?」

そう聞いて周りを見渡すと、美味しそうなアイスクリームが....

「そうにゃよ。あと食べるのもだめだから。」

伸ばしていた手をひっこめる。

「ねぇルミ。どうしよう、暇なんだけど。」

思った通りのことを言ってみるが、振り返ればピンクのネコの姿は見えなかった。

「・・・どこいったんだろ?」

なんて思いながら、五重の塔を眺める。
「中原さん」
名前を呼ばれ、その聞き覚えのある声にドキッとする。
「・・・光希くん!!」

「なんでここに?」
ー京都に来たのは私の意思で...どうして知ってるんだろう?ルミが?

「中原さんが京都に居るのはカイから聞いたんだ。
中原さんが危険なのに放るわけにはいかないから」

ーニコッと爽やかな笑みを浮かべる光希を、やっぱりかっこいいなと思ってしまう...

「そっか。ありがとう」

顔が赤くなってるのがわかる。
ーうまく笑えてるだろうか

光希はきっと、夏がそんなことを考えてるなんて思ってもいないだろう。

「とりあえず....どうしよう....」

嬉しいことに観光地で二人っきりだ。が、デートも何もプランすらない。
悩む夏を見て、光希は苦笑すると「とりあえず、人ごみの少ないところに行こう。」そう言うと、スタスタ歩き出す。

「あ、ちょっ待って...!!」
人ごみにまぎれて見えなくなる光希を、必死に追いかけて服の袖を捕まえた。

やっと光希は止まってくれたが、服の袖を掴まれてるのに気づくと、少し頭を掻いてまた歩き出した。

夏の方はと言うと、別に狙ったわけでもなく掴んでしまったが、離す気もないし、むしろこのままでいたいと切実に思っていた。

が、それも長くは続かない。
現世の誰かが見ている悪夢がおぞましい形となって殺気を放ち初める。
すると、光希は待ってましたとばかりに長槍を出した。

刃の切っ先が光ったかと思えば、目の前の悪夢たちは皆、両断されていた。

「....すごい...」
思わず口から漏れた感想を光希は目ざとく聞きつけ「そう?まだまだだよっ」と返事をした。

数十分後・・・
光希の息もかなり乱れてきた。
夏は、やばいかなと思い逃げ道を探すが、前後左右すべて悪夢で埋め尽くされている。
仕方なく、拾った角材を握り直し光希に耳打ちする。
「敵が多すぎだよ...強行突破しよ?」
が、返ってきたのは夏が予想した返事ではなかった。「いや、ぎりぎりまで....限界まで戦う...!!」

「っ死んでもいいの?!」

ズザッと踏み込む光希にそう叫ぶと「死なないから....大丈夫!!」
そう返事が聞こえた。

も、つかの間、鋭い爪にやられ、光希の脇腹は肉をえぐられていた。
「....っ!!」
声に出せないほどの痛みで光希は、膝をついて倒れる。
白いシャツには、鮮やかな赤が広がっていた。
「光希くん!!!」

カランと長槍が虚しく転がり音を立てた。

「っだ、大丈夫...じゃないよね...」
夏は、明らかに大丈夫じゃない様を見て意を決した。

ー私が光希くんを守らなきゃ...!!

ーせめて...ルミやカイが戻ってくるまで...!!

そう思い、光希の前に立って角材を振り回す...
が、ただの時間稼ぎにしかならず、二人が囲まれて行く距離はどんどん縮まった。
ついに、角材も折られ、残るは生身のみ。
光希の傷も治りかけてはいるが、
貧血と痛みで立ち上がれない...

ーーそういえば契約者じゃない人でも...心臓以外なら大丈夫だっけ...ーー

自分の身体を盾に・・・
そう思ったが、本能的に痛みからは逃れようとするわけで....

足はすくみ、思考も追いつかず...
ただ、悪夢が爪を振り上げた時

ーーあ、私死ぬーー

そう直感的に思った。

ドサッ....目の前の悪夢が5体ほど同時に倒れた。
よくみると銀色の矢が貫通している。
「・・・あ・・・」

一歩も動かず、何もしていないのにバタバタと敵は倒れ、銀色の雨はちょうど夏たちをよけるように飛んできた。

悪夢がすべて消えた後・・・
一体誰が助けてくれたのだろうかと矢の飛んできた方に目を向ける。

と、物陰から赤毛でポニーテールの弓を持った女の子が出てきた...

「あんたたち、死ぬき?」

その子の第一声がこれだ。
思わず目を伏せてしまう。

「死ぬ気だったらごめん。助けちゃってさ」

少し小馬鹿にした態度でいう...が、すぐに目を見開いてはしゃいだ。

「きゃーっ!!!あんたたち契約者?!初めて会ったわ!!嬉しい〜!!」

バシバシと背中を叩かれ、むせる光希。
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