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□銀の少年、金の少女。
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銀の少年、金の少女。
〜正しい一眼レフの活用法〜


 レナとアーウィンが"村"へとやって来てから、いくらかの時が流れた。

 来た当初、レナは彼女の為に用意された部屋からなかなか出ようとはしなかったのだが、最近では気分転換に散歩くらいはするようになり、"村"の住人とも簡単な挨拶程度ではあるものの会話を交わすようになって来た。

 彼女は、彼女の持つ本来の明るさを取り戻しつつあった。

 ……"村"にやって来た当初は大変だった。七代目フレデリック・オーゼンナートこと、フレディが突然連れて来た央魔の少女と上級冥使。それは表面上は静かに暮らす「村」の人々の間に議論の嵐を巻き起こした。央魔であるレナの方は"村"で保護するべき対象である為、全く問題は無い。

 問題なのは冥使であるアーウィンの方である。

「冥使を村に迎えるなどとんでもない!」

「次期大老師様は何を考えておられるのだ!」

「かつては村に居たらしいが、昔は昔! 今は今だろう!」

 ……と言った議論が、フレディを含めた祓い手の重鎮らの間で数日にも渡り繰り広げられ、一時はアーウィンが追い出される寸前まで話しが進んでしまった。

 しかし、レナがそれを大変に嫌がった。

「アーウィンが追い出されるなら私も出て行く!!」

 その琥珀色の瞳から大粒の涙を零しながら、アーウィンにすがりつき泣き叫ぶ彼女の様子を目の当たりにした祓い手の面々は、困り果てた表情でお互いに顔を見合わせた。

 そして再度行われた議論の結果、当面の間アーウィンは監視付きで、最終的な責任をフレディが負うと言った形でなんとか決着した。もっともアーウィン自身は議論の最中、終始嫌そうな表情をしていたが、流石に議論が終わる頃にはわずかであるものの安堵の表情を浮かべていたのを、フレディは見逃さなかった。

 とまあ、そんな騒動から数ヶ月。二人共"村"での生活に大分馴染んで来たようだ。アーウィンは最初の頃こそ警戒され誰も近寄ろうとはしなかったが、監視をしていても全く問題を起こさないし、"村"の人間を襲って血を啜る(すする)ような真似もしない。実に大人しいものであった。ゆえに、最近では監視の目はほとんど無くなっていた。

 安全だと言う事が皆に知れるとアーウィンは一躍"村"の人気者となった。彼が永い年月を生きる間に培って来た膨大な知識は祓い手らに。また、タウンゼント家で働く間に培われたのであろう、料理を始めとした家事の腕前も大したもので、それは女衆らに受け入れられ双方の間で引っ張りだこになっていた。

 そんな様子をフレディはニヤニヤしながら眺めて居たのだが、ふとアーウィンと視線が合い、彼は一瞬だけ、フレディにしか分からぬようにその双眸を紅に変色させる。まるで「後で覚えていろよ?」と言わんばかりの殺人的な視線で威嚇されたフレディは、そそくさとその場を立ち去った。

 危ない危ない、あんな視線に長時間晒されたら祓い手としての訓練を受けているフレディですら危険である。普通の人間であれば絶命していてもおかしく無い。多分。

 そんな事を考えつつ、フレディは散歩がてらにブラブラとしていた。普段は次期大老師としての仕事に追われる毎日で忙しく過ごす彼であったが、今日はそんな責務から僅かな時ではあるが開放され、久しぶりにのんびりとした時間を過ごしていた。

 そんな調子でフレディが歩いていたら、"村"の外れにある大木の根本、その幹の陰にほんの僅か、蜂蜜色の髪が覗いているのが目に入った。

 ……レナだ。

 もはや、トレードマークとも言える純白のワンピースにその身を包んだ央魔の少女は、大木の根本に腰掛け本を広げていた。

 散歩とは建前で、フレディは最初からレナを探していた。前述した通り、彼は最近忙しかった為にほとんど彼女と話す機会が無かった。ゆえに、彼女を探して歩き回っていたのだが、はて、俺は何でこんなにレナと話したいのだろう? ふとそんな疑問が頭をよぎったが、ひとまずそれは置いといてレナと話そうと思い声を掛ける。

「よっ、ねえちゃん久しぶり。元気?」

「あっ……フレディ久しぶり。うん、まあ、元気かな」

「何だよ、まあって。あ、隣、良い?」

「ええ、もちろん良いわよ」

 フレディが笑いながら問うと、レナはフレディに微笑み掛けながら、どうぞと促す。フレディは、レナから50cm程のところに腰を下ろした。

 大木の下、木漏れ日の中でふわりと微笑みかけるその白き少女の、久しぶりに見る笑顔にフレディはドキリとした。

 ……あの湖の修道院で起こった、陰惨な出来事から早数ヶ月。親しい友人の死。母だと信じていた、家族同然だと信じていた存在の裏切りとも言える行為。それらを乗り越えて彼女は今、ここに居る。
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