その他NP作品小説

□銀の少年、金の少女。
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 "村"に来てから、フレディはレナの笑顔を何度か見ていた。初めて笑顔を見せてくれた時に「やっぱりねえちゃんは笑っていた方が全然良いよ」と言ってやったら、顔を真っ赤に染めて俯いてしまった時の事を、フレディは思い出していた。

 ただ、その時とはまた違った感情が込み上げて来てフレディはわずかに戸惑った。胸がドキドキする。顔も少し赤くなっているかもしれない。フレディはそれらを払拭するかのように、レナに問いかける。

「ね、ねえ、何の本読んでたの?」

「あ、コレ? アーウィンが読んでおきなさいって。祓い手の歴史と技術についてらしいわ。今後、役に立つだろうって」

 レナが本の表紙をフレディに見せながら、そう答えた。

 ……随分と難しい本を読ませるものだと、フレディは思った。コレもアーウィン流の陰湿なイジメ……もとい、教育なのだろうか。もっとも、当のレナ自身はそんな事に気付いた様子も無く、一生懸命にその内容を読み取ろうとしていたのが何とも健気である。

「正直言って、内容はまだ全然頭に入って来ないけど……ちゃんと勉強しないとね」

 レナは再び本を開いてページをめくりつつ、無邪気な笑顔をフレディへと向けた。

 そんなレナの表情を目の当たりにしたフレディは、どぎまぎとして落ち着きの無い様子を見せていた。

 だが、レナはそんなフレディの状況に気付かず、言葉を続ける。

「フレディ、あのね? 私、とても幸せなの。フレディが居て、アーウィンが居て、私が居て……。ここの人達もとても良くしてくれるし、私ここに来て本当に良かったって思うの。こんな暖かで穏やかな日々が過ごせるのもみんなフレディのお陰よ。ありがとう」

 ああ、そうか──

 フレディはその言葉を聞いてようやく己の気持ちを理解した。

 俺はレナの事が──

「……レナッ!」

「? なあに?」

 キョトンとした表情で己を見つめるレナに、一気に顔を近付け、




 レナの唇を奪った──




 ……時間にして1〜2秒程度。唇同士が軽く触れ合うだけのキス。……しかし、フレディにはその1〜2秒がとても長い時間に感じられた。

 ああ、やってしまった。我ながら大胆な事をしたものだ。フレディは己のとった行動にほんの少しばかり後悔した。だが、もう後には退けない。レナから顔を離しつつ、口づける際にぎゅっと瞑っていた目をそっと開いて、レナの様子を伺う。

 目を開けたフレディがレナを目にして、おや? と思った。

 反応が、無い。

 怒られるかな、と思っていただけにフレディは拍子抜けした。レナは焦点の合わない瞳で虚空を見つめたまま、ピクリとも動かない。

「え、ねえちゃん……?」

 声を掛けても返事が無い。

(え、これは、どう言う事? もしかして、俺からかわれてる? なるほど、そっちがそのつもりなら……)

 そう結論付けたフレディは再びレナに口づける。

 先程よりも長く、そして、強く。

 不意に柔らかな風が二人の間を吹き抜けてゆく。傍にそびえる大木がサワサワと枝葉を揺らし、木漏れ日の模様を複雑に変化させる。風はレナの蜂蜜色の髪をも揺らし、目の前にいるフレディの額をくすぐっていた。

 口づけを交わしながら、フレディはレナの様子を伺う。だが、未だ変化は見られない。先程までと同様に、何処か遠くを見つめているかのような表情だ。

(やれやれ、ねえちゃんもしぶといなあ)

 フレディは少しばかり呆れつつも、悪ノリしてレナの唇をペロリと舐めてみた。

 ……甘い。
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