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□アーウィンとお勉強
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 一方その頃──

 アーウィンは台所に立ち、夕食の支度を進めていた。

 慣れた手付きで肉と野菜を切り刻み、軽く炒めてから煮込んでゆく。野菜に火が通ったらホワイトソースを入れ、さらに少し煮込み、仕上げに少量の牛乳を加えて完成だ。

 味見はしていないので、味はわからない。そもそも冥使ゆえに人間の食べ物は食べられない。以前にアーシュラが美味しいと言っていたからおそらく美味しいのであろう。自身が食べないモノを作るのは、最初は大変な労力を要したが、慣れればどうという事はない。

 ……最近レナは食が細くなり、固形物が食べられなくなって来ているようだ。このところ、シチューを作る頻度が多くなっているのはそんな彼女への配慮であるのだが……そう言えば、あれからもう7年の歳月が過ぎようとしている。そろそろ頃合いと言う事だろうか?

 アーウィンはそんな事を考えながら、この7年間で料理の手際は良くなったものだなと自嘲気味の笑みを零しつつ、出来上がったばかりのシチューをスープ用の皿によそう。

 と、1台の車がこの家に近付いて来るのをアーウィンは感じ取った。

 ──冥使の五感は人間のそれよりも遥かに鋭い。やはり、車はこの家を目指しているようだった。だんだんと車の音は近付いて来て、やがてこの家の側面にあるガレージの中で音が止まり、そして──1人の女性が家の中へと入って来た。ナタリー・タウンゼントこと血まみれの聖女、アーシュラである。

「お疲れ様です、おかえりなさいませ」

「……あの子達の様子はどうなのかしら?」

「はい、レナは勉強をして疲れたのか、今は眠っているようです。もう一人の方も経過は順調です」

 私がそのように報告すると、彼女は満足気な笑みを浮かべて、

「そう……そろそろ始めるわよ」

 リビングに置いてあるソファーに腰を下ろしながら、事も無げにそう言い放った。

「…………わかりました」

 アーシュラは私の返事を聞くと、ソファーの傍らに置かれている、サイドテーブルにあった書物をパラパラと捲りつつ、目を細めて凄惨な笑みを浮かべた。

「ところで、この本はなに? 随分と難しい数学書みたいだけど……?」

「ああ、それですか? それは先程レナに教えていた、数学の専門書です」

 私がそのようにアーシュラに伝えると、彼女はかなり驚いた様子で、

「ええっ!? こんなに難しいモノを教えているの!? 私にも解けないような数学の問題ばかりなんだけど……」

 と、聞き返して来た。

 ……アーシュラも聖女と謳われた事があっただけあり、かなりの知識量を持っているのだが、流石に数学は専門外のようだ。

「……いえ、どうせそろそろ始まる頃合いだと思っていましたので少し趣味に走り、レナをいたぶって楽しんでおこうかと思いまして」

「………………」

 ──その言葉を聞いたアーシュラはこう思ったらしい、「この変態ドS冥使が!」……と。



 ──レナがこの事実を知る事になるのは、フレディに伴われて"村"へとやって来てからしばらくたった頃だったと言う……。

END
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