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□ツバメと少女と少年と
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ツバメと少女と少年と
とある、人間達の住まう街の片隅にある民家の軒先に、ツバメの夫婦が巣を作っていました。その夫婦はとても仲睦まじく、どんな時も一緒に居りました。
夫婦は協力して巣を作り上げ、しばらくすると、奥さんは小さな卵を三つ産み落としました。
それから夫婦は交代で卵を温めていきました。毎日、毎日。雨の日も、風の日も。
やがて夫婦が頑張ったおかげで、可愛らしいヒナが誕生しました。
しかし、本当に大変なのはこれからです。
生まれたヒナ達はとてもとてもお腹を空かせていて、元気良くピィピィと鳴いては食べ物を催促します。夫婦は慌ただしく、ヒナ達のためにエサを捕りに出掛けます。忙しいけれども、夫婦にとってはとても充実した幸せな時間でした。
──それから数日後のある日のことです。
奥さんがいつものようにエサを捕り、運んでいる最中に、人間の作った道路の上へうっかりとエサを落としてしまったのです。普段の通りなら、そんな危険なところには近づかなかったでしょうが、奥さんは少し疲れてしまっていて、周りの状況を判断する能力が低下してしまっていました。そこに一台の車が猛スピードで走ってきます。
奥さんが気づいた時には、もう手遅れでした。
急いで飛び立とうとしましたが、間に合わず、車にはね飛ばされ、道路にたたき落とされました。小さな身体が力なく、冷たい道路の上に横たわります。車は何事もなかったかのように通り過ぎてゆき、あっという間に見えなくなりました。
道路で倒れている奥さんに気づいた旦那さんは、慌てて奥さんの元に飛んでゆきます。奥さんは辛うじて息がありましたが、今にもその命の灯火は消えてしまいそうでした。
旦那さんは何度も奥さんに食べ物を運び、励ますかのように鳴き続けました。しかし、そんな努力の甲斐もなく奥さんは力尽き、ピクリとも動かなくなりました。
旦那さんは必死に、動かなくなった奥さんを揺さぶったり、軽くつついたりして起こそうとしています。
"死んだ"ということが分かっていないのでしょうか。それとも、理解している上で"死"を認めたくないのでしょうか。
やがて、もう諦めたのでしょうか、身体を揺するのを止め、つぶらな瞳で奥さんの亡骸をじっと見つめています。そして、旦那さんは唐突に甲高い鳴き声を上げました。どこか悲しげな響きを孕んだその鳴き声が、空しく辺りに響き渡っていました。