FE小話
□Baby, You're Mine
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「あ、ネコ…」
「ああ。何か知らんが妙に懐かれてな」
そう言うベオウルフの肩には、毛並みのきれいなネコがベターッと巻き付くように座っていた。
そのネコはただ座っているのではなく、グルグルと喉を鳴らしながらベオウルフの顔にズリ〜ッと擦り寄っていた。両肩を行き来しつつ、何度もズリズリ〜ッと…。
“ずいぶんと気に入られちゃって…”
と、ほほ笑ましく思いながら見ていたラケシスだったが、次第にその目付きが変わってきた。
確かにほほ笑ましい光景なのだろうが、自分の目の前でああもベッタリくっつかれてはなんだか面白くない。
くっつかれている恋人も、
「こら、しつこいぞ」
などと言いながら、まんざらでもなさそうにネコの頭や喉を撫でている。
ラケシスの眉間にシワが寄ってくる。自分一人が蚊帳の外…と言うより、これは『嫉妬』だ。
人間の女が相手ならともかく、よりにもよってネコに妬いているとは彼女自身認めたくなかったが、無性に腹が立っているのも事実だ。
「どうしてそんなに擦り寄るのかしら?」
内心はどうあれ、努めて冷静な声で尋ねる。
「どうしてって…う〜ん…自分のものとか
って示すためのにおい付けみたいなもんじゃねぇか?」
「自分のもの…」
ネコの方はやっと気が済んだのか、ベオウルフの肩から下り、少し開いているドアから部屋の外に出て行った。
その後姿からネコがメスだと判り、ラケシスはますます苛立ちを募らせた。
「せっかく風呂に入ったのに、顔中毛だらけになっちまったな」
そう言いながら顔に手をやるベオウルフの背中が壁に押し付けられ、その首に細い2本の腕が巻き付く。
「な…っ!?」
ベオウルフの体がやや下に引っ張られ、今度はラケシスがさっきのネコのように自分の頬をベオウルフの頬に擦り付ける。
「オ、オイ!こら、ラケシス…!?」
「ネコはしてもいいのに、私はダメなの?」
顔と顔が触れ合う行為自体は甘いものだが、彼女の声はかなりトーンが下がっていた。
「ダメとかそうじゃなくって…ドアがな…開いたままで…」
ベオウルフの声が途切れ途切れになるのは、ラケシスが顔だけでなく首筋にまで擦り寄り、時には柔らかい唇がなぞるように触れてくるからだ。
「開いてたって誰も入ってこないからいいでしょ」
「入ってはこんだろうが…通りすがりに見られるぞ」
こう言えばドアを閉めるか、自分を解放するかと思ったのだが、彼女はドアを一瞥した後、またベオウルフの頬に擦り寄った。
「イヤなら力ずくで離したら?」
普段の彼女からは想像もつかないような挑発的な声音と表情に内心ドキッとしながらも、ベオウルフはこの状況の打開策を考えていた。
彼女にされてイヤなことではないというのも問題であり(と言うより彼女に今までこんなに情熱的に(?)迫られたことがない)、力ずくで離したら、ドアの外に集まりつつあるギャラリーによけいな誤解を与えかねない。
今の立ち位置もベオウルフには不利で、ラケシスはドアに背を向けているのに対し、彼はドアの正面を向いている。
ラケシスにベッタリとくっつかれ、擦り寄られ、困っているような、喜んでいるような表情をまともに晒しているかと思うと…。
ベオウルフが抵抗もせず黙り込んだのを怪訝に思い、ラケシスが顔を覗き込む。
「ベオウルフ?」