FE小話

□雨水<うすい>
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「…確か今頃だったな」
「えっ?」

執務室で一息つきながら、ノディオン王エルトシャンは椅子に深く座り込み、窓の外を見ながらポツリと呟いた。

夫の言葉の真意が分からず、グラーニェは思わずキョトンとしてしまった。


「何が今頃だと思う?」

そんな妻の様子を面白がるように問い掛けるエルトシャンの表情は、まるでいたずらを思い付いた子供のようでもあった。

エルトシャンがそういう表情を見せるのはごく限られた少数の人の前だけ…というのをグラーニェは最近知り、自分にもそういう表情を見せてくれるのは嬉しかったが、今はこの難問(?)を解かなければならなかった。

ノディオン特有のことなのだろうか?謎かけなのだろうか?

グラーニェは淡い桜色の頬にほっそりとした白い指をあて考え込んでいたが、机の上に置かれた暦の本が目に入った瞬間、頭の中で色々なことが繋がってひとつの答えを導きだした。

「“雨水”…でしょ?」

今度はエルトシャンがキョトンとする番だった。

「うすい?」

「あ、あら?違うのかしら…確か暦の上で春を告げる言葉の一つで、『雪が雨に、氷が水に変わる頃』という意味合いで、ちょうど今の時期に…」

以前読んだ暦の本や父親の話にそういう言葉が出ていたと一生懸命説明するグラーニェの姿にエルトシャンも思わず綻んだ。


「あなたが博識なのはよく分かるんだが、俺が聞きたかった答とは違うな」

言いながら立ち上がり、グラーニェを引き寄せるとゆるく波打つ栗色の髪を指に巻き付け口付けた。


「レンスターであなたと初めて会ったのが2年前の今頃なんだがな」

「あ…!」


グラーニェは小さく声を上げて絶句した。そんな大切なことをすっかり失念していたなんて…。


「こういうことは大抵女性の方が覚えていて、その日が近付くと何かしら言ってくると思ったんだが…」


そこで一旦言葉を切り、グラーニェの柔らかな頬を指でなぞった。


「あれから2年経ってもあなたが何も言わないから忘れているのかと…」

「………」
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