FE小話

□雷鳴の記憶
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さっきまでは日差しが目に痛いほど容赦なく照りつけていたというのに、いつの間にか力強く盛り上がった雲が空を覆わんばかりに急速に勢力を拡大していた。

「…終わるまで降らなきゃいいんだが」

だが吹き始めた風は強くなり、先ほどまで真夏の太陽に熱せられていた鎧を冷やし始めていた。
もう既にどこかで雨が降っている。しかも風向きから察するに、目的地の方だ。

「ツイてねぇな…」

ぼやいたところで、いま属している部隊の歩みが止まるわけでもなく、目指す方向からは何かの前触れのように雷鳴が聞こえ始めた。




「べ、別に雷が怖いわけじゃないわ!ちょっと驚いただけよ!」

突然の、しかも間近で落雷したと思われる轟音に思わずベオウルフに抱きついたラケシスはパッと体を離すと、訊かれてもいないのに弁明した。

「ハイハイ。分かったよ、姫さん」

吹き出したいのをなんとか堪え、苦笑に置き換えながらベオウルフは答えた。
あの日も今みたいに雷を先触れとして激しい雨が降ったが、戦場に向かっていたあの時とは違い、今はとりあえず平穏なアグスティ城の室内訓練場で、お姫様を相手に剣の稽古…あの時は思いもしなかった状況…
いや、あの時は将来のことは元より、何も考えられなかった。ただ死に物狂いで馬を操り、剣を振るっていた。雨と泥と汗と血に塗れながら…聞こえていたのは怒号と呪いの言葉と鋼が何かにぶつかる音と…雷鳴の大きさなど覚えていない。

「で、まだ続けるのかい?」
「もちろん…」

よ、とラケシスが言い掛けた時に再び雷鳴が響き渡った。
ビクッと肩を震わせ、ぎゅっと拳を握り、眉間にしわを寄せたが、今度は抱きつきはしなかった。
強情というか意地っ張りというか…ベオウルフはまたも苦笑を浮かべる。

「雷が気にならないくらい集中するこったな」

抱きついた際にラケシスが落とした剣を拾い上げて差し出しながら、ベオウルフは今度はニッと笑った。

「気にしてないわ!」

声を荒げ、ひったくるようにベオウルフから剣を取り返すと、ラケシスは身構えた。

「んじゃ、始めるか」

ベオウルフもまた剣をかざした。
このお姫様を雷鳴の大きささえ思い出せないような『殺し合い』の場に放り込むためにこんなことをしているのでは、と心の中で自嘲しながら…



●END●
…実はベオラケ本ボツ原稿;
『傭兵』としてのベオさんの過去が書きたかったのですが一番描写が細かいのは、『夏の急な雨』?;まだまだ力不足ですけどね^^;
そしてビミョーにべおらけ同盟で書いた雨の話と絡んでいるような感じになってしまいました。でもベオさんの過去はいろいろと興味深いと思うのですよ。妄想像しがいがあります(笑)











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