FE小話

□夜気
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学術書や魔道書が占拠している机のわずかな隙間に紙を置き、インクを未だ付けていない羽ペンをもてあそびながら、マリクは椅子の背もたれに寄りかかり天井を見上げた。

彼の目には天井など見えておらず―


「エリス様…」


思わずそう呟いた己の声でハッと我に帰り、部屋の扉が閉まっていることにホッと胸をなで下ろす。窓は開いていたが、外は人の気配すらない夜の砂漠が広がっているだけだった。


─数年振りに再会したエリス王女は幽囚の身であったにも関わらず、自分のことよりも他人を思いやる優しさは昔のままだった。

それがマリクの心を締め付ける…いっそ、辛かった、怖かったと口にしてくれれば…しかし彼女は笑顔しか見せなかった。あくまでも『アリティアの王女』として振る舞っていたのだ。


…もしエリスが己の心情を隠すことなくさらけ出してもあの時の自分に何が出来ただろう…エリスの支えになれない自分の不甲斐なさがマリクには悔しかった。



そんな鬱々とした思いが祖国への手紙を書き進められない理由だった。
近況を綴るだけではすまされない、自分の気持ちを一方的に吐露してしまいそうだった。そんな自分勝手とも取れる手紙を送るわけにはいかない―




と、夜風がマリクの頬をなでていった…幼いとき、寝込んだ彼の汗ばんだ頬をエリスが拭いてくれたように…



「エリス様」


―あの時からずっと抱き続けている想い、それはどうやっても偽れなくて―


マリクは小さく息を吐くと、座り直し、手紙を書き始めた。
自分の近況を書き、エリスやアリティアの近況を尋ね、そして…


―あなたのことをずっと想っています―


最後に一文、そう書いて封をした。


あれこれと書きたいことはあった筈なのに、結局書けたのはその一文だけ―どう思われるかは分からない。分からないけれど、書かずにはいられなかった。
得体のしれない不安がつきまとうこんな夜だから書けたのかもしれないが…





アリティアがアカネイアによって陥落させられたという報せがカダインに入ってきたのは、それから半月後のことだった――



●END●






何だかすごく悶々としているマリクで申し訳ないのです;ラストも最初考えていたのと全然違うものになっていたり…この手紙を受け取ったエリス姉の話も書いてみたいのですが…







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