long story


□その優しさ
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「…あの、」

「どうした。」

とめどなく流れていた涙が
やっと落ち着いた頃には、
私の所為で始まり損ねた宴が
すっかり盛り上がりを見せていた。

自分の感情の整理に忙しかった私は
大切な事を忘れていたのに気付き
慌てて白ひげさんに声をかける。

近くには隊長さん達が何人も居て
私の声でこちらに
視線が集まるのを感じたけど
謝らなければ、と言葉を繋いだ。

「先程は本当に、申し訳ありませんでした。
命を助けて頂いた上、見ず知らずの私に
本当に良くしてくださったのに
私、…酷い事を言ってしまって…。
本当は、ここ数日ずっと楽しかったんです。
なのに…本当にごめんなさい…!!」

"吐き気がする"

そんな事、微塵も思ってなんかいなかったのに。

甲板の床におでこをぺったり着けて謝った。

心から申し訳なく思ったから。

でも、やっぱり彼らは優しくて。

「グララララ…!!
誰もあれがお前の本心だなんて
思っちゃいねぇさ。」

隊長さん達もそうだ、そうだって
口々に言ってくださって
また私は皆さんに救われた。

「……すみません、ありがとうございます。」

彼らの優しさは、それだけじゃなかった。

白ひげさんを始め、
隊長さんもクルーの方々も誰一人、
私が取り戻した記憶について
一切触れてこなかった。

本当だったら此処に置いてもらう以上、
私からきちんとお話すべきだし
向こうにだって聞く権利はあるはずなのに。

そう、私から説明すべきなのは分かってる。

私が生きてる事が判明すれば当然、
海軍は探そうとする筈で。

あいつが…追ってくる可能性がある事、
白ひげさんに話さなければ。

だけど今日だけは
お前が何者どあろうと、過去など関係無いと、
そう言ってくださった言葉に甘えて
私の焦る気持ちに目を瞑った。



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