鏡の中の黄昏蝶1話〜27話

□鏡の中の黄昏蝶1
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留学生か何かだろうか。


それにしても、制服があるような学校に通っている子供が、こんなスラム街を真夜中にうろついているのは不自然だ。
人間界と魔界を繋ぐ塔――テメンニグルの騒動から2ヶ月が過ぎたが、
今でも塔から漏れ出した低級悪魔が辺りを徘徊しており、特に夜は危険極まりない。


テメンニグルの件に関与していたダンテが、悪魔が活発になる夜に、寝る間も惜しんで退治してまわっているのだ。



世間一般には、悪魔の存在はそれほど知られているわけではない。
戦闘力を持たない一般人は、悪魔に出会ったその時点で大抵殺されているので、
この辺りでは塔の出現による混乱に乗じた殺人鬼がうろついている、ということになっている。


そういうわけで、ここ最近では夜に出歩くものは殆どいないのだ。
だからこんな夜中に、子供が出歩いているはずがない。



それに、どうも気になる雰囲気を持つ少女だった。
色んな人種が集まるこの地で、アジア人はそれほど珍しいわけではない。
だというのに、何か普通の人間とは違うような、どこか浮いたような存在だったように思う。



ダンテはしばらく思案したあげく、鞄を持って自分の事務所の方角へ足を向けた。
鞄はここに放置しておいても良かったのだが、何やら少女の大事そうなものだし、
住所を書いた手帳や学生証でも入っていたら、その住所に送ってやってもいいといった、ダンテにしては殊勝な考えだった。



『ふぁあ……とりあえず帰ったら寝るか……』
すでに明け方に近い時間。ダンテは大きなあくびを一つして、歩き出した。



* * *

瓦礫が比較的片付けられている家屋の下に、このみは座り込んでいた。
片付けられているといっても、何か力技で強引に脇にどけられているといった方が正しいのかもしれないが。


男から逃れたこのみは、建物の倒壊が更に激しくなった通りに迷い込んでいた。


ますます元の店に戻るのは難しくなってしまった。
それに、通学鞄も先ほどの場所に置いてきてしまった。
取りに戻るにしても、またあの化け物に出会うかもしれないと思うと、腰が上がらない。


いっそのこと、夜が明けるのを待って、人通りが多くなってから動くほうがいいのかもしれない。
このみが走り回っている間、先ほどの男以外には不自然なほどに人に出会わなかったのだ。


男……先ほどの出来事を思い出して、このみは身震いした。
現代の日本で普通の高校生活を送っているこのみは、実際に銃を撃つ音を聞いたのは初めてだった。

このみには両手でも支えきれないような大きな銃を、男は軽々と振り回していた。
しかも何の躊躇もなく、あの化け物たちに引き金を引いていたし、妙に手馴れていたように感じる。



それにあの銃の男の見た目も、店主と思われる男も、見た目は外国人だった。
使っている言葉もどうやら英語のようだ。
やはり周りの建物といい、ここは日本ではないどこかなのだろう。



その時またざわりと心持が騒いで、このみは反射的に視線を向けた。

そこにはこのみの通学鞄を手に持った男が、驚いたような顔をして立っていた。


「ひっ……」
『おいこら待て!』


小さく悲鳴を上げて、また逃げ出そうとするこのみの襟を、男が掴んだ。
男とこのみの間にはそれなりに距離があったというのに、一体いつの間に近づいたのだろう。


「きゃあああああっ!離して!!」
『お前また悪魔に襲われたいのか?自殺行為だぞ』
「離して!!誰か、助けて!」
『……あー、クソッ』


暴れて抵抗するこのみに埒があかないと思ったのか、男はこのみの腰を片手ですくい上げ、
そのまま家屋のドアを足で蹴り開けた。


このみを抱えたまま、男は大股で家屋に入り込む。


勝手知ったる様子で男はソファの上にこのみを投げ出すと、ドアの方へ向き直り、外へ出られないようにドアノブ同士を強引に捻った。


人間業とは思えない行為にあっけにとられ、大人しくなったこのみの方を振り返った男は、
陰鬱な表情で言い放った。


『せっかく事務所のドア直したところだってのに、また壊すハメになったじゃねえか……』






***あとがき***

学校の怖い話の定番といえば「4時44分」「踊り場の姿見」ですよね!
この話では「廊下の姿見」ですが……。


日が終わろうとする夕暮れ時、空と地面が一色になる時間を「逢魔が時」もしくは「黄昏」といいます。
今から妖怪が出てきそうな時間だそうですよ。


「逢魔が時」と「4時44分」のネタを使いたくて日没時間を調べると、
東京では11月の上旬がこのくらいの時間に日没を迎えるそうです。
けど日本でも東西でかなり日没時間が変わってくるので、あくまで目安として考えて下さい。


1話ではヒロインとダンテが出会いましたが、まだまともな会話を交わしていません。
DMCの世界に入り込んでしまったヒロイン、現実に戻れる日はくるのか!?


どうぞお楽しみ下さい!
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