鏡の中の黄昏蝶1話〜27話

□鏡の中の黄昏蝶7
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* * *


ダンテはマークとの通話を終えると、受話器を置いた。
見上げてくるこのみを真っ直ぐに見据える。


「……今の電話は、マークだ。お前もあった警察官」
「え……」
「マークは、お前が言った住所や電話番号は存在しないと言っていた。
お前が通ってたらしい学校にも、このみの名前はなかった。
お前の生年月日は未来の日付になってる。……どういうことなんだ?」


次から次へと言葉を浴びせられ、このみはうろたえる。
恐らくダンテの言った言葉が理解できていないだろう。


「あの……分かりません……」


言葉が分からないのか、今の状況が分からないのか。


「わたし…………21世紀から……来たんです。嘘じゃないです……」


21世紀から来た。
このみの口から告げられた、俄かには信じがたい言葉。
電話に出る前に、このみが言いかけていたのはこのことだろうか。


一昨日の、警察署でのこのみの様子を思い出した。
新聞紙を見て驚いたような顔をしていたのを覚えている。
あれは、きっと新聞紙に書かれた年号を見て、驚いていたのだ。


今にも泣き出しそうに顔を歪めるこのみを見て、慌ててダンテは言葉を紡ぐ。
「待て、泣くな!お前が嘘はついてないってことは、なんとなく分かってるから!」


かろうじて泣き出さずに済んだこのみは、自分の鞄から例の機械を取り出した。
「これ電話です。携帯電話……」
「なに?セロファン?」
「……持ち歩ける電話です」


持ち歩ける電話?
21世紀にはそんなものが開発されているのか。

その電話は、ダンテの手のひらにすっぽりと納まるほど小さい。
事務所に置いてある電話と比べると、比較にもならないほどだ。


未来から来たという、このみの言葉を少し疑ってはいたが……。
SF小説のような展開というか、未来人と未知との遭遇みたいでちょっとワクワクしてきた。


「じゃあ、それで俺んちの電話にかけられるのか?」
ダンテが先ほどマークと話していた電話を指差すと、このみは首を振った。


「できないです。未来……じゃないと」
「なんで?」
そう尋ねると、このみは困った顔をして『電波ってなんて言うんだっけ』とかなんとか日本語で呟いている。


「えっと……今電話は使うことができません。あとは、カメラとか……」
このみは携帯電話を掲げると、レンズのようなものが付いている面をダンテに向けた。
バシャリと変な機械音がしたかと思うと、画面をダンテに見せてくる。


「お……おお!?」


そこにはダンテが映し出されていた。
こんなに小さくて持ち歩けるサイズなのに、電話、それにカメラにもなっているのか!



「何これどうやって撮った!?」
興奮してダンテが言うと、このみは操作方法を教えてくれる。


「カメラ向ける。ここ、ボタン押します」
言われた通りに操作すると、またもやバシャリという機械音がする。
画面にはカメラを向けた雑誌の表紙がしっかりと写っている。


なんだか楽しくなってきて、ダンテはこのみの手から携帯電話を借りると、事務所の色んなものを撮りまくった。
撮っているうちに気付いたが、このカメラ、手のブレを自動的に補正してくれるらしい。

なんという高機能だ。



「このみ、こっち来い!」
手招きすると、このみは首を傾げながらも寄ってくる。
ダンテはこのみの肩を抱き寄せると、カメラを自分たちに向けた。


機械音がしたかと思うと、ダンテは画面を確認する。
そこには笑顔全開の自分と、戸惑ったような表情のこのみが写し出されていた。


「よく撮れてるな、これ」
「………………………」
嬉しそうに画面を見せると、このみに呆れたような顔をされてしまった。


「……はしゃぎすぎました」
冷ややかな反応を受けたダンテは、携帯電話をこのみに返した。


「あとこれ、電子辞書……です」
もう一つこのみが差し出したのは、以前見た辞書のようなもの。
使い方はもう、見て知っている。
「お前が文章書く時に使ってたやつだな」
このみは頷くと、心配そうな顔でダンテを見上げる。



「わたしが、21世紀から、来たこと……信じてくれますか?」



この時代にはありえない、高性能な機械。
保険証の生年月日が未来という事実。

そもそもこんな荒唐無稽な嘘をつく必要もない。
このみはじっと、ダンテを見つめている。




「……信じる」
ダンテは、頷いた。

このみはあからさまにほっとしたようだ。


「あの、わたしは鏡を、探さないといけません。この時代の、飛行機は使えません……だから……」


このみが帰る手立てがあるとすれば、それはもう一度鏡を通った時ということだろうか。
この時代の日本へ渡っても、彼女の帰るべき家はどこにもない。

このみが通ってきたという鏡を見つけ出さねば、彼女は故郷に帰れないのだ。




「……今から、また探しに行くか」
「え?」
ダンテの言葉にこのみは疑問で返す。


「本当は、エンツォが店をピックアップし終わるのを待つつもりだったが……。
まあ、何もしないよりはいいだろ」



自分は21世紀から来たと、告白する時このみはどんな気持ちだったのだろう。
少しは自分を信用してくれているのだろうか。
未来から持ち込んだ機械など、悪用されないとも限らないのだ。
自分を、信頼するに足る人物だと思ってくれたのだろうか。


……もしもそうなら、自分も誠意を持って応えたい。
できれば、彼女の生きていた時代に、無事に帰してやりたいと思う。




寝起きの顔をとりあえず洗った後、壊れて外れたドアをどかして、ダンテは外へ出る。
このみはそのダンテの背を慌てて追いかけた。


「鏡、探すんですか?」
「今からだと、たいした距離歩けないけどな」
「…………」


このみはぱちぱちと瞬きを繰り返した後、深々と頭を下げた。
「……ありがとうございます」



「……お前に協力した報酬としてさ、未来の地球をちょっと覗き見するくらい、許されるよな?」
もし鏡が見つかったら、の話。


別に、技術を盗もうとかそういうことを考えているわけではない。
ただ純粋に、発展した未来の世界を見てみたいと思った。

ダンテは、意味が分からず首を傾げたこのみを見て、イタズラっぽく笑った。





***あとがき***

ダンテからヒロインへの好感度が上昇したようです。

この話で情報屋エンツォさん初登場!
情報屋……なんという動かしやすいキャラクターなんだ!!
彼にはこれからもちょくちょく登場してもらいたいと思います。


ヒロインが21世紀から来たと知ったダンテですが……。
果たしてヒロインがいた世界はDMC世界の未来なのか?
その辺りの謎も、追々書いていきたいです。
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