鏡の中の黄昏蝶 短編

□聖なる夜、君に贈る
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泣き顔を見られるのが嫌で、このみはダンテから顔を逸らそうとするが、顎を掴まれていて動かせない。


「……このみ、来年はツリー飾ろう。で、貰ったプレゼントはクリスマスの朝までツリーの下に置いとこう。
今年は行けなかったけど、来年は教会に行こう」
「でも……でも……」


それでは、来年も帰るなと言われているようだ。


「お前は常に最悪の事態を想定しすぎ。もっと先のこと、楽しみにして過ごした方がいい。
……俺も、お前とそうしたい」


ダンテは泣きはらすこのみの目尻に唇を寄せて、その涙に触れた。
涙を吸い取るようにそっとキスをする。

ぎょっとして身を硬くするこのみを見て少しだけダンテは笑い、今度はこのみの唇に視線を落とした。
蝋燭の炎のように静かに熱いその瞳を見て、このみの心臓は跳ね上がる。


今から何をされるのか悟ったこのみは、慌ててダンテの胸を押し返した。

それと同時に、ダンテの手がこのみの顎から離れる。


「分かった!来年のこと、今から楽しみにしてる!でも好きな人だけは絶対に作らないから!」

思わずそう言うと、ダンテはこのみに不満げな声色で尋ねた。

「……何でこのタイミングでそれ言う?」
「い、今言っておかないといけないような気がして……」


ドキドキと高鳴る胸を押さえつけて、このみはダンテから距離をとった。

そんなこのみを見て、ダンテは小さく溜め息をつく。
が、気を取り直すように首を振った。


「クリスマスプレゼントは、明日の朝一緒に開けよう。明日のこと楽しみにすんなら、そんなにハードル高くないだろ」
「……うん」

このみが頷くと、ダンテは笑ってこのみの髪を撫でた。


「……ダンテはやっぱりサンタさんだよ」

このみがそう言うと、笑顔だったダンテは思い切りしかめっ面になる。

「なんで」
「だってわたしに、たくさんのものをくれるから」
「……俺、サンタより王子の方がいいんだけど」

ぼそりとダンテにそう言われて、このみは首を傾げた。

「王子?なんで王子様?」
「べつに」


そっぽを向いて、ダンテは手元のスノードームをいじりはじめた。
蝋燭の赤い炎とスノードームの青色が混じり合って、そこだけ不思議な色合いになっている。


停電は大変だけれど、こうして暖かな光に包まれているクリスマスイブも幻想的で良いものだと思う。
結局雪のせいで教会には行けなかったけれど、ダンテの言うとおり来年もあるのなら、それを楽しみにしておこう。

そこまでこのみは考えて、このみは「あっ」と立ち上がった。


「ダンテ、冷蔵庫!どうしよう!」


本当に電線が切れたのだとしたら、電気の復旧に時間がかかるはず。
まだ停電してからそれほど経っていないから中身は平気だろうが、いつまで停電が続くか分からない。

「雪でも詰めとく?死ぬほどあるぜ」

そう言ってダンテが指差した窓枠にも雪が積もっている。

未だ止む気配はなく、時々唸る風にこのみは落ち着かない気分になる。
夏のハリケーンの時の風を思い出すような音だ。

ふとダンテを見ると、スノードームをいじるのを止めて、意地悪そうな顔でこのみを見ていた。


「このみ、今夜は一緒に――」
「寝ないからね!?」
「ちっ。寒いから湯たんぽ代わりにしようと思ったのに」


――ひ、人をなんだと思ってるんだ、この人は!


「来年にあげるダンテのプレゼント決めた!湯たんぽ!」
「えっ、やだ!」
「実用的でいいじゃない!」


他愛もないやりとりを交わして、このみはダンテと共にクリスマスイブを過ごす。
明日の朝、プレゼントを開けるのを楽しみにしながら。



***あとがき***

Merry Christmas !
いつも季節外れの話を提供しているので、今回ばかりは時期に合わせたネタにしてみました!

英語で夜這いなんて意味の単語あるのかな?と思いつつも前半のやりとりを書いていました。

あと海外の暖房事情がよく分からないんですけど、暖炉って一般的なんですかね?
でもまあここも「こまけぇこたぁいいんだよ」の精神で!

ダンテ達が何をくれたのかはご想像にお任せします。
お、思いつかなかったわけじゃないんだからね!
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