鏡の中の黄昏蝶28話〜
□31‐C.因果応報
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「…………っ、本当にしつこいわね!」
レディは部屋の出入り口に陣取りながら、銃の引き金を弾いた。
絶え間なく襲いくる蝶の群れを次々と撃ち落としていく。
日が暮れた頃にダンテから連絡があって、このみの護衛を依頼された。
"できれば1人で片をつけたい"と話していたダンテから頼まれたのは意外だったのだが、断る理由なんてあるはずもない。
指定された宿屋に着いたばかりのレディに「このみを頼む」と一言残し、ダンテは入れ替わるようにして出て行った。
程なくして次々現れだした蝶の群れを見て、レディはようやくダンテの言葉を理解した。
ダンテが魔力で作った即席の結界が施されたベッドの上で、このみは蝶の群れに怯えている。
いくら相手が申し訳程度の魔力を持っている悪魔とはいえ、このままではジリ貧だ。
レディは残りの弾倉を確かめて舌打ちする。
いつまで保つかは分からない。
新たにリロードした拳銃の口を敵へ向けた時、それまで羽ばたいていた蝶の群れが、ばらばらと木の葉が舞うように床に落ちていった。
色とりどりの蝶の羽が、複雑な模様の絨毯のごとく床上に広がる。
「何……どういうこと……?」
怪訝な表情を作るレディの背後で、このみを囲んでいた結界が解かれた。
恐る恐るベッドから降りたこのみは、なるべく床に落ちている蝶を視界に入れぬように窓辺へ歩み寄る。
黒に塗りつぶされた闇夜の先を見通すように、このみは目を細めた。
「このみちゃん、どうしたの?」
「…………ダンテがジャンを倒した」
「分かるの?」
レディがそう尋ねると、このみは小さく頷いた。
その横顔はどこか覇気がない。
今にも消え入りそうな面差しのこのみの手を、レディは思わず握り締めた。
「……レディさん、わたしもう向こうの世界には戻らないよ」
「………………そう」
何となく、この部屋に入ってこのみの顔を見た瞬間、そんな気はしていた。
覚悟を決めたというよりは、諦めたといった方が正しいような、そんなこのみの表情。
そしてこの間までと明らかに違う"女"の顔付きをしたこのみに気が付いた。
この部屋で一体何があったのか、想像つかないほど清らかに生きてきたわけではないけれど、いざ本人を目の前にするとどんな反応をしたらいいのか分からない。
このみの事情を考えると、ダンテとの仲を素直に祝福することも難しかった。
「……ねえ、このみちゃん。答えられる範囲でいいから、何があったのか話してくれる?
あなたの影がない理由も……」
昨夜ダンテからあった不審な電話。
影がどうこう言っていたけれど、あれはこのみのことだったのだ。
安っぽい電球に照らされて作られた影は、レディ1人分しかない。
このみはレディの言葉に頷くと、ゆっくりと語り始めた。