頂き物
□Time bomb 〜 死んだふりする 怖いやつ 〜
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世界最強の半魔双子とそのLoverの名無しさんは、アイスキャンディーを咥えながら玄関前で立ち尽くしていた。
今夜は茹だるような熱帯夜。
エアコンのような人類に優しい文明の利器を何故か備えていない事務所の夜は……暑い。
それは腹を串刺しにされようが、割と真面目に殺し合いをしようがピンピンしている半魔の彼らであっても、暑いものは暑いのだ。
「アイス食べたくない?」
名無しさんのこの一言は、事務所でだらしなく伸びていた双子をその気にさせるには充分過ぎる提案だった。
そうあのバージルでさえ「ここで汗だくになるより、この際子供だましのアイスキャンディーでも構わない」と半ば泣き言に近い呻き声を発したのだった。
近くの店で思い思いのアイスキャンディーを購入し、帰ってから食べるなんて悠長なことを言っていられない三人は、袋を破って冷たいそれを口に含みながらダラダラと帰路につく。
そして以下は特段興味はないとは思うが、彼らのアイスを巡る小競り合いを面倒だがカットしないでお伝えしよう。
「貴様……この暑さの中で、よくそんな甘ったるいものを選べるな。舌も頭もどうかしているのが伺える」
バージルはラムネアイス(そんなベタな!)をもそもそと齧りながら、ダンテの口元にあるピンクのそれ(いちご練乳アイス。それも言わなくてもだいたい想像がつく)を見る。
「何でアイスのチョイスまで苦言を呈されなきゃなんないんだよ。ほっとけ。あ、名無しさん、それ一口頂戴?」
「ん、いいよ」
名無しさんがチュッと小さく音を立ててオレンジ色のアイスを口から離し、どうぞとダンテに差し出す。
果肉たっぷりみかんバー。
暑い夏にぴったりの爽やかテイスト。
「待て。俺も欲しい」
しかし言わんこっちゃない。始まってしまった。
「何だよ。俺が先にお願いしたんだろ」
「貴様の後など死んでも嫌だ。名無しさん、こちらと交換しないか?」
お互い三分の一ほど齧った程度だが、名無しさんとしてはラムネも気になっていたので魅力的なトレードだ。
「ん、んー……ラムネも美味しそう。うーん、ダンテ……?」
「お前まで。ダメダメ。あーん」
「何があーん、だ。気色の悪い……名無しさん、ほら」
バージルはラムネアイスを大きめに齧って口に入れると、すぐさま名無しさんの頬に手を当て振り向かせる。
冷気の刺激で赤く艶が出た唇を割り、アイスを放り込んでやると名無しさんは眉間に皺を寄せた。
「ばっ、ばーじぅっ! これおぉきい!」
許容量を超えた大きなかけらが口いっぱいに広がる。
「では溶かしてやろう」
「させるかよ」
大胆に舌を入れ込もうとしたバージルの顔を素早く手で押し退けたダンテは、まだモゴモゴしている名無しさんの口にいちご練乳を差し込んだ。
「あぐ!」
「はいどうぞお兄様。名無しさんの甘ーいいちご練乳と俺との関節の関節キッスだ」
「貴様……もはやよく分からんが、寒気はした」
バージルは軽蔑の目でダンテを睨むと、大人しく自分のラムネに戻る。
厳密に言えば片方が名無しさんにキスした後に、俺も俺もともう片方が間髪入れずにキスをする事がある。
そちらの方がよほど立派な関節キスなのではないかと思うが、それを指摘したところで互いに強烈な吐き気を催すだけだ。
そうこうしている内に名無しさんのみかんバーの下部が溶け出し、細い指をてらてらと濡らす。
それを発見したダンテは、では頂きますと彼女の手を取り甘酸っぱく濡れた指ごとアイスに吸い付く。
「ひぇ……!!」
「この変態が!」
「変態上等。お口キス魔のバージルには名無しさんの『指』のエロさは分からな……」
「いい加減にして! もう味分かんないよ! 全員自分のを食べて!」
名無しさんはラムネいちご練乳を飲み下すと、ベタベタになった指をダンテのコートで拭く。
そして怒気を放ちながら一歩先を歩き始めてしまう。
「名無しさん……酷いな。どうしていつも俺ばっかり割りを食うんだ?」
「それが名無しさんの貴様への評価だ。せいぜい虫にでもたかられていろ」
フフンと小馬鹿した笑みを浮かべたバージルはさっさと名無しさんの隣につきなおす。
「ホント……アイス一つ穏やかに食えねぇのかよ」
ダンテは疲れた表情を浮かべて、名無しさんに謝ってハンカチを借りようと駆け出したのだった。