鏡の中の黄昏蝶1話〜27話

□鏡の中の黄昏蝶3
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警察官二人を目の前にして、このみはかなり及び腰だった。
ダンテとかいう人物が、パトロール中の警察車両を呼び止めたのが数分前。


このみが口を開く前に、ダンテが軽く事情説明をしてくれている。
彼らの会話はこのみには速すぎて聞き取れない。
時々日本とかそういった単語がかろうじて聞き取れる程度だ。


その間このみはぼんやりとそのやりとりを眺めている。



どうやらこのみは迷子という形で紹介されているらしい。
警官は他の人間と同じようにまじまじとこのみを見るものの、特に不審そうな様子は見せないので、鏡のことは伏せて言ってあるのかもしれない。


やがてパトカーに乗るように促された。
ダンテは警官に何か言われて、コートの裏から例の二丁拳銃を取出し警官に預けている。



……まさか今の今まで拳銃を持ち歩いている人物と一緒に歩いていたのか。
改めて今日の行動を見直すととたんに怖くなってきて、
隣に乗り込んできたダンテから少しでも離れようと、このみは反対側のドアのほうへびたりと貼りついた。
そのこのみの様子にダンテはちらと一瞥をくれたが、別段気にする素振りもなく腰を落ち着ける。



この人はよく分からない。
悪魔とかいう化け物に襲われた時も助けてくれたし、食べるものだって出してくれたし、
今日だってどこにあるか分からない鏡を一日中付き合って探してくれた。
悪い人ではない……と思う。


けれど、彼がそばにいると、このみの中の本能的な恐怖が警鐘を鳴らす。
それは昨日骨董品店で、あの影に覚えた恐怖と似ている。
似ているとはいっても、まったく同じではない。
違和感と恐怖心が混ざった不思議な感覚を覚えるのだ。



警官二人がそれぞれ運転席と助手席に乗り、パトカーは走り出す。
これから警察署に向かうようだ。
このみは警官二人の後姿を眺めながら、やはり彼らに違和感を覚えざるをえなかった。



今日一日街を歩き回って、様々な人とすれ違った。
皆が皆振り返ってまでこのみを見るので最初は何事かと思って、視線を避けて俯いてばかりいた。
けれどそれでは骨董品店を探すことなどできないので、ようやく顔を上げたその時。


このみは言いようのない違和感を覚えたのだ。
通り過ぎる人、このみに視線を寄越す人、みんな見た目は普通の人だ。
なのに、このみにはどうしても人の皮をかぶった全く別の何かに見えてしょうがなかった。


自分だけがこの世界に馴染めていないような感覚。
簡単な言葉で説明すると、アウェー、とでも言えばいいだろうか。


もしかして自分も、彼らから見たら同じような違和感を覚えられているのだろうか。
だから、こんなに視線を集めるのではないか?



ふとこのみは窓の外へ視線をやった。
昨日は暗闇で細部までは気づかなかった町並みが、夕焼けに染まって窓の外を流れていく。

その風景にも同じような違和感。


走る車のデザイン、人々の服装、ウィンドウの向こう側に置かれたブラウン管。
このみの知っているものよりも、何十年か古い気がするのだ。


最初は日本じゃない、外国だからだと思った。
ダンテの事務所にあった家電の数々もこのみの目から見ると古いものだったが、それは本人の趣味かと思っていた。


でももし、違っていたとしたら。
この世界ではそれが普通なのだとしたら。


思い返せば、電子辞書や携帯電話を取り出したとき、ダンテは奇妙な反応を返していた。
まるで見たことすらないような……。



考えれば考えるほど不安になってきて、心臓が重たくなるような感覚を覚える。
もしもこのみの不安が本当だとしたら、警察に相談するのは失敗だったのでは――。


車がブレーキをかけ、このみの体は慣性に従って前のめりになる。
サイドドアが開けられ、警官の指示に従い車を降りると目の前にあるのは警察署だ。



ここまで来ると、もう後には引けない。
このみは警察官の背を追って、警察署へと足を踏み入れた。



***あとがき***

どうしてもダンテ視点の話の間にヒロイン視点をいれたかったので、
短めのUPとなりました。
本当は次の話と続いてたんですが、視点がコロコロ変わって分かりにくかったので。


というか1話と2話が長すぎたんだ!
カウントしたらそれぞれ1万字くらいありました。
でも一話はどうしてもダンテと邂逅するシーンまでいれたかったんだ……。


スクロールが大変なので改行はあまりしてないのですが、
読みにくいと感じる方がいらっしゃればご一報下さい。
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