鏡の中の黄昏蝶1話〜27話

□鏡の中の黄昏蝶5
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* * *


蝶は事務所に着く前に既に撒いてしまった。
いくら悪魔が乗り移っているとはいえ元が昆虫なのだから、
どれほど数が多かろうとダンテの相手になるはずもない。


「これでよし」
事務所にたどり着いたダンテは、家を出る際取り外してしまったドアをはめ込んで、倒れこまないように椅子を置いて固定する。
蝶番が完全に壊れているので、これは業者を呼んで直すしかなさそうだ。
その辺りの手配はエンツォに任せるとして……。


ダンテは背後にあるソファを振り返った。
事務所に戻ってきたことで安心したのか、家に着くなりこのみは気絶したように眠ってしまった。


昨日さんざん蝶から逃げ回って、その後不眠で日中歩き倒したのだ。
緊張の糸が切れてしまっていてもおかしくはない。


「はーあ、なんか面倒なことになったな……どうしたもんかね」


ダンテはこのみの顔を覗き込む。
このみの黒い睫毛は涙でうっすらと濡れており、時折ふるふると震える。
起こすのは可哀想だが、11月にソファで本気寝されると風邪を引いてしまう。


とりあえず自室のベッドに運ぶために、このみを抱きかかえる。
部屋は余っているが使えるベッドは1つしかないのだ。
客室にあるベッドはシーツも引かれていないし部屋は物置と化している。
自分はソファで寝るからいいとして、このみをこのままにしておくわけにはいかない。



腕の中のこのみはまだあどけなさが残る顔で、ただでさえ幼く見えるのに眠っている様子は子供にしか見えない。

起こさないように静かにベッドに横たわらせ、シーツをかけてやる。
慣れない繊細な動作に思わずため息を漏らす。


若干19にして子守をしているような気分だ。




物音を立てないようにそっとベッドを離れようとして……ダンテの腹の虫が鳴った。
まさか今の音で起きやしないかとこのみの方を振り返るが、
起きる様子もなく寝入っている。
よほど疲れていたようだ。


そういえばもう夕飯の時間だ。
今日は昼中ずっと歩き通していたから、いつもよりも腹が減っている。


とりあえずいつものピザ屋にデリバリーを頼んで、その後レディに電話で相談しよう。
そう決意したダンテは、静かに自室を後にした。
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