鏡の中の黄昏蝶1話〜27話

□鏡の中の黄昏蝶8
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* * *

ダンテと再び鏡を探しに出かけたはいいが、今日も骨董品店は見つからなかった。
単純に時間が足らなかったせいもある。
結局見覚えのある道に出ることもなく、以前通った道をなぞるだけのようになってしまった。


『まあなんの当てもなく探してたらこんなもんだろ。気落ちせずにゆっくり探せばいい』
このみには何て言っているのか分からないが、どうやらダンテは励ましてくれているらしい。
『はい……』
このみはゆっくりと頷いた。



『さて、日も暮れてきたしピザでも買って帰るか』
「えっ……」
ピザという単語が聞こえて、このみは思わず声を上げてしまう。


『何?お前ピザ嫌い?』
嫌いではないが、さすがに毎日ピザやファストフードだと飽きる。
今日の昼食も、外でハンバーガーだった。
それにここ数日の食生活は、圧倒的に野菜が足りていない。


『ならお前、なんか作れたりする?』
『つ、作る?』
なんだかまずい方向になってきた……。
母が用意する晩御飯の準備を手伝うことはよくあったが、人に披露する腕前があるかと言われると自信がない。


『じゃあ食材買っていくか。家の冷蔵庫なんにもなかったしな』
『…………』
どうしよう。
何故かこのみが作る方向で話が進んでいるような気がする。

でも世話になっている身だし、いつも食事は与えて貰ってばかりだったから、
できることならやった方がいいのだろうか……。


ダンテの隣を歩きながら、このみはいつまでも悶々と考え込んでいた。


* * *


夕方の混雑したスーパーの中で、このみは難しい顔をしている。
『お前今日は何作ってくれる?』
ダンテはこのみの様子に気付かないようで、無邪気に手料理に期待している。


『カ、カレーとか……?』
『カレー?インド料理?』
カレーライスならなんとか作れると思って、先ほどからカレールーを探しているのだが、見当たらない。
こっちでは食べる習慣がないのだろうか。
というか、よく考えるとダンテの家には米もなかったし炊飯器もない。


(カレーは無理かも……)
このみは早々にカレーを作ることを諦めた。


『やっぱりパスタにします……』
それなら簡単だし、具を作るだけなら失敗はしないだろう。
プラスしてサラダを付ければ栄養バランスもそんなに悪くないはずだ。


乾燥パスタと、具材は無難にミートソースでいいやと思ってひき肉を探す。
ダンテは特に口を出すこともなく、食材を選ぶこのみを興味津々といった様子で眺めるだけだ。



スーパーには日本では見たこともないような食材や、びっくりするほど大きな品物で溢れている。

このみはキョロキョロと辺りを見渡しながら、改めて自分は違う文化圏にいるのだなと自覚する。
もしも旅行や留学でこの地に来ていたら、こういった体験も楽しいだろうに。



食材を買い終えたこのみとダンテは、ずしりと重たい買い物袋を抱えて家路に着いた。
これを機に自炊する気になったのか、ダンテもあれこれ買い込んだので結構な荷物になった。



『じゃー今日の晩飯はこのみに任せた!』
『はっ、はい……』
ダンテに背中を押され、自信がないままこのみはキッチンに立つ。


(せめて、食べられるものを作らないと……!)


まず鍋にパスタ用の湯を沸かす。
その間に玉ねぎやニンジン、セロリをみじん切りにしておく。
切った野菜とひき肉を炒める。
冷蔵庫にあるトマトジュースも借りて、ケチャップとコンソメ、それに塩コショウで適当に味をつけてみた。


とりあえず作ってみたパスタソースの出来を味見すると、不味くもないし、美味いというわけでもない。
ダンテにも味を見てもらうと、しばらく黙られた後、『まあ、いいんじゃないの』という言葉をもらった。

あまり期待には応えられなかったようだが、食べられるものを作れただけでも上出来だと思う。
あとはパスタが茹で上がるまでソースを煮込んで、サラダを用意すれば出来上がりだ。



出来上がったパスタとサラダを前にして、ダンテとこのみはテーブルに着く。

『あの、ごめんなさい。わたし料理、うまくないです』
『うん、まあ……俺も久々に手料理食べられるし』
『…………………』
『とりあえず、食うか』
『はい……』



そうして、夕食は始まる。
『そういえば、お前さ。その量で足りんの?』
『……えと?』
『少なくないかってこと』

ダンテは自分の皿とこのみの皿を交互に指差す。
このみはパスタの乗った皿を見下ろすが、特に少なくもなく普通の量だと思う。
対するダンテの方は、このみの皿の倍以上ある。
ダンテは見た目は若いし食べ盛りだろうから、このみよりも多いのは納得できるのだが……。


『変に遠慮するのはやめとけよ。今日はお前が作ったんだし』
よく聞き取れなかったが、このみにとっては普通の量なので、問題ないと言いたくて頷く。
『だいじょうぶです。普通です』
『なら、いいけど』


その後もダンテは食事中に話を振るものの、このみは聞き取るのに集中して手を止めてしまうので、
途中でダンテも会話をするのを諦める。
結局夕飯は黙々としたまま終わってしまった。
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