鏡の中の黄昏蝶1話〜27話

□鏡の中の黄昏蝶9
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* * *

先ほどからダンテは不機嫌な態度を隠そうともせず、このみの前を歩いている。
しかも、競歩かと思うほど早足だ。

このみは半ば走るようにして、ダンテの後を追いかける。


『ま、まって……!』
これ以上早く歩かれるとついていけない。
このみは息を乱しながら、ダンテの背に声をかける。


『…………………』
ダンテは無言で振り返ると、一応その場で立ち止まってくれる。


このみが走ってダンテの隣に立つと、休む暇もなく彼は歩き出した。
今度はややペースが落ちて、このみが早足で追いつける速度だ。



……なんでこんなに不機嫌なんだろう。

ダンテの背を追いかけながら、このみは考える。


ダンテの態度が変わったのは、出掛けに頭を触られようとして、それを避けた直後からだ。
……あんなあからさまに避けたのがまずかったのだろうか。

というかそもそも、何故このみを触ろうとしたのかが分からない。



エンツォという人に、コーヒーの礼を言われて頭を撫でられた。
お礼は嬉しかったけれど、子ども扱いされてるようで少し恥ずかしかった。

その後彼に激励されて、エンツォがにこやかに笑顔を向けてくれたのにつられて、このみも思わず笑ってしまったのだ。
そういった流れで、なぜダンテがこのみに触ろうとしたのか分からない。


ダンテは今不機嫌オーラ全開だし、聞いても答えてくれないだろう。
そもそも、彼に聞く勇気がない。


このみはそっとため息をつくと、ダンテの後を追いかけた。



* * *



5件目の骨董品店もハズレだ。
このみが店を見て首を振ると、ダンテは地図に×印を入れる。


エンツォが探し出してくれた店は幅広く、女性が好みそうなアンティークショップや、雑貨屋まで網羅してあった。
今回はその細かさが裏目に出たようだ。


このみは空を見上げた。
流れる雲は夕日に染められている。
今日はたくさん歩いたから、家に戻る頃には暗くなっているはずだ。


『あの……今日は、もう……』
暗くなるから帰りませんか、という意味を込めてダンテに声をかける。
ダンテはこのみを振り返ると、冷ややかな声音で言った。


『……お前、早く自分ちに帰りたいんだろ?
だったら、多少無理して探した方がいいんじゃねえの』

このみには到底聞き取れない早口でそう言うと、再び歩き出してしまう。
どうやら、まだ探すのを続けるようだ。


「………………………」
このみは困惑した表情で、ダンテの後に続く。


熱心に探してくれるのはいいが、この刺々しい雰囲気が辛い。
それに夜になったら、またあの蝶や悪魔が出てくるんじゃ……。

そう言いたくても、とても言い出せない。
このみはそれまでと同じように、ダンテの後に続く。



* * *



辺りには街灯がともり、夜が訪れる。
往来を歩いていた人々も家路に着き、周辺は静けさに包まれた。


もう完全に夜だ。
彼は、まだ骨董品店を探すのを続けるつもりなのだろうか。


もう寒くなってきたし、このみも歩き疲れてへとへとだ。
ペースが落ちて来て、ダンテとの距離もあき始める。



『まっ……て……』
息が上がっているこのみは、呼吸を落ち着けるために立ち止まり、膝に手を置く。
熱い息を吐いて、深呼吸する。



やがて呼吸を整い終えて顔を上げると、そこには誰もいなかった。


「え……」
このみの声が聞こえなかったのだろうか。
きょろきょろと辺りを見渡すが、ダンテの姿は見えない。


どこかの角を曲がったのかもしれないと思って、このみは歩き回るがどこにも彼を見つけられなかった。
どうやらはぐれてしまったらしい。



どうしよう。
地図を持っているのはダンテだし、こんな所で迷子になったらこのみ一人では到底事務所まで戻れない。

それに辺りはもう暗い。
もし一人でいる時に、悪魔に襲われでもしたら……。

嫌な想像に、このみの背中を冷や汗が流れる。
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