鏡の中の黄昏蝶1話〜27話

□鏡の中の黄昏蝶10
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* * *

このみは洗濯機が渦を作るのをじっと眺めていた。
くるくると洗濯物が回る。


この地へやって来て、今日で七日目。
洗濯機の使い方もダンテに教えてもらって、自分で洗濯できるようになった。


昨日は結局悪魔は現れず、ダンテとこのみはそのまま事務所へと戻った。
このみは到底夕食を食べるような気分ではなく、泣きながら眠ったのが昨夜の話だ。


これから、どうしたらいいのだろう。
元の世界へ戻る手がかりはあの鏡しかないのに、今はどこにあるかも分からない。


『このみ』
背後から声をかけられて、このみはビクリと肩を揺らした。
振り返るとダンテが立っている。


『話がある』
『…………はい』
多分、今後のことを話すのだろう。
このみは洗濯機の蓋を閉じて、不安を覚えながらダンテを追ってリビングへ入る。



『結局、鏡の行方は不明なわけだけど……。お前はこれからどうするつもりだ?』
『えっと……』
どうするつもりだ、と聞かれてもそんなのこちらが聞きたい。


『俺は、エンツォにその鏡を買って行った男の行方を捜してもらうよう頼んでみるけど』
『はい……』

昨日の店主の話では、その男は真夜中に去っていったのだ。
目撃者は少ないだろう。


『わたし……鏡が、えっと、見つかった場所。行きたい……。
おんなじ鏡、見つかるかも』
男が持ち去った鏡と同じような力を持った鏡があったとしたら、元の世界へ戻ることができるかもしれない。
そう言いたくて、このみはつっかえながら主張する。


『一理あるかもな。けど、もうあれから二ヶ月経ってる……見つかるかどうかは分からない』
『…………でも』
少しでも可能性があるならそれに賭けてみたいのだ。
このままただ待っているだけでは、きっと鏡は見つからない。


『分かったよ……』
ため息をつきながらダンテは立ち上がる。
これからその場所へ連れて行ってくれるのだろうか。


連日このみのために連れ回して本当に申し訳ないと思う。
だが、この世界でこのみが頼りにできる人物は彼以外ほとんどいないのだ。


『ありがとうございます……』
もっとたくさん感謝の気持ちを伝えたいのに、彼にどう言えばいいのかが分からない。
こんな情けない自分を嫌いになってしまいそうだ。


(もっと、英語の勉強……頑張れば良かった……)
このみはダンテに聞こえないよう、そっとため息をついた。



* * *


このみが連れられてやってきた場所は、ダンテの事務所からさほど離れていない市街地だった。
このみの目の前では工事関係者が入り乱れ、瓦礫の除去が行われている。
その中で瓦礫が積まれているトラックの方へ足を向けた。


『二ヶ月前に比べりゃだいぶマシになってるな。この辺歩けたもんじゃなかったんだぜ』
キョロキョロと辺りを見渡すこのみにダンテはそう言う。


『ああちょっとそこの人たち!危ないから瓦礫には近づかないで!』
手押し車を押している作業員が、このみ達に声をかける。
作業員はこのみ達に近づくと、怪訝そうな顔でこのみをじっと見つめた。

またか、と思ってこのみは一歩下がる。
作業員ははっとして、厳しい口調でこのみ達に注意し始めた。


『まったくもう、好奇心で見学しに来るのは結構だけど、仕事の邪魔はしないでほしいな』
『邪魔ついでに質問があるんだが、この辺で鏡とか、なんかいわくありげなものが落ちてなかったか?』
ダンテは作業員にそう尋ねるが、作業員は首を振った。

『金目になりそうなものなら、二ヶ月前にもうあちこち持ってかれてる。
君たちトレジャーハンターを気取ってるのかもしれないけど、ここにはもう瓦礫しか落ちてないよ』


そう言うと作業員は手押し車を押しながら去っていった。


『……ここには何もないってさ』
『はい……』
分かっていたことだが、実際何も手がかりがなくて落ち込んでしまう。


『うちに戻るか』
『…………はい』

このみは肩を落としながら、来た道を辿った。
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