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□繚乱〜弐の巻〜君の頭を撫でるため〜
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夏の昼間。
相変わらず忙しい真一郎とは反対に、近藤は縁側で座り込んで晴れた空を見上げていた。
昨夜も何度目かの「仕事」を早々に片付け、朝にはいつもの「袱紗包み」が届けられた。
それを目にし、手にする度、近藤の中には先立っての「夜」が思い出されるのだ。
荒れた気持ちを鎮めたいという理由で「仕事」を受け、得た金を全て預けて出かけたのは吉原随一の男宿「桜花廊」だった。
真一郎と出かけていた事で段取りは分かっていたし、何よりもあの時は「朧月」に会いたかったのだ。
自分が朧月の旦那を手に掛けた罪悪感と、せめて朧月に何かしてやりたいと思う正反対な感情。
仕事で得た金を茶屋に落としても、手持ちの金はまだ十分あった。
その金で朧月と、小さな禿に簪と櫛を買い、見世へ届けて欲しいと頼んだのは「あの時」何も取り戻せなかった変わりだった。
そして訪れた朧月との対面。
真一郎抜きでは初めての事だった。
顔を見て詫びの一つも入れたかったが、それを口にしようとすると踏ん切りがつかず、酒に手を伸ばした。
訪れた床入りの時。
朧月は「私が選ぶ」と告げ、そのまま朧月に手を引かれて閨へ入った。
その時間はどんな酒よりも甘美なもので、乱れた息を整えた布団の中、白い布の上に長い黒髪が寝乱れた朧月はどんな女よりも扇情を煽った。
その夜は何度も朧月を求め、朧月もその度に拒む事なく自分を受け入れた。
体に溺れる、という表現があるが、それに相応しい位、今の近藤は身も心も朧月に溺れていた。
見世を出る時、朧月は「またのお上りを」と頭を下げた。
それが社交辞令だと理解していても「あの甘美な時間を得たい」という欲が近藤の中に生まれる。
「こうやって、客が増える…のだろうな」
近藤は小さな溜め息と共にそう独りごちた。
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