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□繚乱〜四の巻〜君の涙を拭うため〜
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「調べて分かる事なら早く調べて頂戴…証拠も無しにお客様を疑ってはいけないわ」
「桜花姐さんが…そう仰るなら」
花魁の白い手が、刀の柄に布をあてて握られる。
そこに朱の染みが移る。
「あなたは部屋へお戻りなさい…お客様をいつまでも放っておいてはいけないでしょう?朧月」
「はい…姐さん」
少しばかり元気を無くした風に背を向ける朧月。
桜花の手は布を番頭に渡すと、胸の前に動く。
「この刀は…間違いなく、あの子のお客様の物、なのですわね?」
「はい、花魁」
「この色は…間違いないですわね…」
願わくば、その方があの子の大事な、あの子の笑顔を取り戻してくれたお客様ではありません様に。
そう願いながら桜花はざわつく気持ちを抑えてくるりと体を返した。


近藤が桜花を久々に訪れたのは初秋に季節が移り、吉原の飾りが紅葉や銀杏に変わった頃だった。
当たり前に朧月は近藤に呼ばれ、朧月が部屋へ入るなりそこがまるで閨である様に二人は深く口付ける。
紅葉は近藤の手が朧月の着物の裾にかかった時点で部屋を出た。
閨以外で体を繋ぐ事がない訳ではない廓でも、もしかしたら最中に人が来るかも知れない。
桜花の禿の仕事には、どうやら見張りも入っているらしい。
「声は、抑えろよ、朧月」
着物を出来る限り乱さずに、それでも朧月の細腰を支えながら近藤が熱の入った声で囁くと、朧月は涙目で頷いてから近藤に口付ける。
こうすれば声は出ない、とでも言う様な朧月の口付けと、それに反応する体。
近藤と朧月の熱が覚めるのは、それから少しの事で、部屋に呼ばれた紅葉は少々着物が着崩れた太夫と客を目にしていた。
「姐さん、着物が…髪も」
紅葉は仕方ないと言いたそうに笑うが、それを直そうとしないのは、いずれ「桜花の色子」になるのだという事実を表している。
つまり、ここが「そういう場所」だと理解している証。
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