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□繚乱〜朧月〜
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「お父、ご飯作れないよ、どうしたの?」
「お前に話がある、ちょっと来い」
私は仕方なく父に引っ張られ、母の前に座らされた。
母の隣には父が座る。
「話って何?」
私が問いかけると、父は静かに言う。
「お前…江戸に、行かないか」
「江戸?」
「お前の兄ちゃん達が奉公に出てるのは知ってるだろう?お前も、江戸へ奉公に出てくれないか」
父の言う事はすぐ理解出来た。
幼い弟妹、伏しがちな母。
私とて兄達の仕送りでは生活が厳しいと食材で分かっていた。
それまでは余裕のあった米が、今では麦や稗を足さなくてはならない程になっている。
私の返事は決まっていた。
「分かった。行く」
あっさりと私が応えた事が父も母も拍子抜けだったのか、少し間を置いて父が言う。
「昼に来てた人が連れて行ってくれる…明日」
「…分かったよ。俺、頑張る」
その夜の食事は珍しく父が作ってくれた。
私は、簡単に荷物を纏め、明日の支度を済ませた後、母や弟妹と時間を過ごした。
奉公に行けば簡単には戻れない。
兄達でそれは分かっていた事だったが、やはり少しだけ、寂しかった。
母や弟妹の様子がいつもと変わらなかったという事は、私は感じる寂しさを上手に隠せていた、という事なのだろう。
それだけは嬉しかった。
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