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□繚乱〜四の巻〜君の涙を拭うため〜
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そんな紅葉に近藤は小さな包みを渡しながら笑う。
「すまないな、紅葉。どうも朧月の顔を見ると抑えが効かない」
「有り難うございます、主様。私は、主様と姐さんが一緒にいて下さる事が嬉しいです」
にっこりと笑いながら包みを開くと、そこには今までよりも大人びた櫛。
「主様」
きょとんとする紅葉の髪に櫛を飾りながら近藤はまるで親の様に言う。
「禿の時期も終わりが来る。お前が一人前になった時に飾る物が無くてはな」
「近藤様、そんな」
まるで紅葉が一人前になるのを見る事が出来ない様な言い方を。
朧月は思う全てを口にせず、言葉をごまかす様に紅葉に自分の髪から抜いた簪を手渡す。
「姐さん、これ」
「あなたが一人前になる前に、一つ位渡しても良いかと思って」
「そんな…私はまだまだ姐さんに教えて頂く事が沢山ありますから。宜しくお願い致します」
頭を下げる紅葉を朧月は微笑んで見守る。
顔を上げて少し頬を染める紅葉は、十を一月を待たずに越える。
そうすれば次は禿ではない、色子の本格的な仕事や作法も覚えて、覚えが早ければ再来年には新造になるかもしれない。
朧月が頼もしい後輩に「それもそうね」と笑う、それと同じに酒と肴が部屋に届く。
ここからしばらくの宴会は紅葉も含めて三人で、まるで団欒の様だった。
そんな団欒の中、外から朧月に声がかかる。
「回しか?」
「いいえ…今日は回しを入れないで欲しいと頼んでいるのですけど…少し、失礼します、近藤様」
朧月の柔らかい表情を肴に酒を干し、近藤は頷いて紅葉に声をかける。
紅葉としても外からの声がなぜかかったのか、もしかしたら自分が「今日は朧月に回しを入れないで」と伝え忘れたかと不安がったのだが、朧月のいない部屋を守るのは自分の仕事だ。
部屋を出る朧月に小さく頭を下げると、紅葉は近藤の側に座り直し、それを見定めて朧月は襖を閉めた。
こちらへ、と呼ばれるままに廊下を進むと、玄関に導かれる。
いつもよりも人が多く、ざわつく玄関。
「お呼びでしょうか」
そう声をかけた玄関脇の部屋には、そこに普段いる筈のない花魁、桜花の姿があった。
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