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□繚乱〜終章〜百花繚乱
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朧月の落ち着きに胸を撫で下ろしていたのは誰あろう花魁桜花と東雲の両名。
まるで自分の身内の様に、ある意味身内の様なものなのだが、親身にここしばらくを気にしていた二人にすれば、朧月に笑顔が戻り、仕事も近藤に加えて、回しの客もこなしているのだからようやく一安心と言った所なのだろう。
その日、廓が開いてしばらくした頃、桜花に呼ばれた東雲は入り慣れた部屋の中で珍しく桜花と差し向かいに杯を傾けていた。
「本当に良かったわ…あなたの手助けがあったからですわね」
「あたしは何も。花魁が策を考えて下さったからですよ…あたしだけじゃ、とても上手くいかなかった」
「わたくしだって何もしていないわ…ああそうそう、今日呼んだのは、その時の御礼をと思いましたの…今頃になってしまって申し訳ないのだけれど…」
桜花はそう言って東雲の前に何やら包みを差し出す。
不思議がる東雲に包みを開く様に促すと、東雲はゆっくり手を伸ばして包みを開く。
そこにあったのは、古いが確かに見覚えのある簪と櫛。
「これ、は」
東雲の中で懐かしい風景が思い出される。
父母、兄。
楽しかった日々。
「花魁、これは」
ようやく声を出せた東雲は目の前の包みに手を触れかねている。
その中にある「思い出」に気付いている桜花は、膳を避けて東雲の前へ進み、優しい笑顔を浮かべて簪と櫛を東雲の手に取らせる。
「椿からずっと以前に聞いていましたの。あなたがこれを仕入れた店の子で、しかもこれをとても気に入っていて、これの似合う人に会いたいってここへ来たって事。あの頃のわたくしは座敷にも出ていたし…わたくしにはこの簪と櫛が必要だったの。でも」
本当はね。
椿に話を聞いて、この簪と櫛を手にした時から。
あなたにいつかこれを渡そうと、ずっと思い続けて来たの。
「桜花…姐さん」
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