一章: 過去に苦しむ正義達
□UMPIRE11 猛火の中で見た夢
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悔やんでも
どんなに悔やんでも
無くなった時に
どうして気づいてしまうの?
心の中の空虚さが
こんなにも心底支配しているのに
排獄と化した闇の中で
ただ、思う。
想い出にしないで欲しいと−…
ガラスで敷き詰められた狭い三畳程の白い周囲が、一瞬にして真っ赤に染まった。
その部屋の入り口は開いたまま。中には白かったベットの上で既に息絶えた冷たき死体が白の袴に着替えさせられていたが心臓部から溢れ出るどす黒い血によって周囲を血の海に変えていた。
そのどす黒い血を今だ噴出する遺体のつんつんとしたウェーブかかった緑の髪を愛しそうにそっと撫でるか細いが白い腕は血の通っていないサイボーグの腕だ。
大きなピンクの瞳を伏し目がちに遺体に向けていた。流れるようなフリルのついた薄青の長い髪が返り血によって醜く変色している。黄色のネグリジェさえも・・原型を留めていなかった。
そのネグリジェのスカートの裾を血に塗れた手が必死で掴んでいる。その必死で掴む腕の主が震えるようなか細い声で、ネグリジェの女サイボーグに語りかけた。
「うぃ・デ…ぃ−・・」
ネグリジェの女介護型ロボットウィンディが冷ややかな視線でその手をみたと同時に容赦無く裸の左足で掴まれた手を踏みつけた。
「っ−・・!」
声にならない悲鳴が周囲に木霊する。それとは裏腹にウィンディは倒れた黒の長い髪に扮したピクニック服の姿の血まみれの女の顔を見ながらそれの後に居た黒い衣服を着た黒髪の少年ロボットに向けて口を開いた。
「アポロン大統領・・。わざわざ急所を外したのね?」
嘲笑が狭い医務室を震わせる。
そして感情の無い少年ロボット−・・アポロンは自身の剣に変形した血まみれの腕をさっと下に下げて淡々と答える。
「これで全てやったわけではないからな。−・・逃げた鼠はもう一匹いる。ヘラは囮で使用する。」
信じられない−・・その会話に。
ヘラは朦朧としながら残る意識の間で聞いていた。
どうして殺さなかった?
囮?
フレイは?
嘘だよね?−・・これ、悪夢だよね?
ヘラは震える手で自身の穴の空いた腹を包んだ。
腹からは貫通した証として絶え間無い苦しみと痛み−・・強烈な程のどす黒い血が周囲に流れている。
ウィンディの嘲笑−・・全てが物語っている。
全てが”当てはまっている”
嘘だ。嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。
ヘラは無為の衝動に駆られ、左手を流れ出る穴を防ぐように包み込み、右手でなんとか倒れた自身の体を前進出来る様に動かした。
「あぁあああぁあっ!」
頭をかち割らんとする鋭い痛みが体を束縛する。
限界は−・・もう近いか、近くないか。
そんな彼女を見て微笑むウィンディの姿は美しいどころか堕天使にさえ見れた。
「大丈夫よ。−・・ヘラさん。貴方にはまだ用があるの。」
くすくす笑う、その声は邪の如く。
「死なない程度に治療しておくわ。」
そう告げた彼女の両腕がヘラに触れ様とした瞬間、ヘラはあらん限りの力を放出し、ウィンディからの加護を拒絶した。
凛とした黒の瞳が裏切られた憎悪に激しく揺れている。整った眉先に濃い眉間の皺が鋭く刻まれたいた。
そんな彼女を見たウィンディが変わらずピンクの瞳を微笑ませている。
「そんな返して欲しいの?大切な人」
忌々しげなヘラの瞳を遊ぶような笑いを立て、ウィンディがお茶目けたっぷりなピンク色を大きく見開いて叫んだ。
「ほら、返してあげるわよ−・・貴方の大切な人の血を−・・!」
そう叫んだウィンディの両手から零れんばかりの血が溜まっているのを見たヘラは空ろな瞳で見つめたー・・
大切そうに包んだその血溜まりをヘラの頭上に持っていくと弾かれたように開花させた。
どろどろとした血がヘラの顔をぬちゃりと染めた。
苦しくて−・・苦しくて−・・
涙が溢れた。
悔しくて−・・悔しくて−・・
口の中に鉄を含んだ生臭い”それ”が充満した。
「おいしい?−・・フレイ様の血」
ヘラは嗚咽を抑える事が・・出来なかった。