天国へのSong
□1・song 事件発生
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これがきっと最期かもしれない。
いや・・これが最期だったの。
どうかお願い。
私を恨まないでね・・・。
宮崎美也子は長い黒髪と知的な面長の顔をふいに暗くなった空に向けた。
空はもう星の煌く絨毯に変わり、そんな空に負けないようにと都会の光が宙を貫く。
ふーっというため息とともに彼女は宙の頂点から、自分の前に立つ大きなドーム型の建物に目を映した。
幼い頃に夢見たこの場所で。
私は今、世界最高の歌手になる。
このドーム型の建物はオリエンタルドームといって、最高の歌手に値するものしか入れない私のような歌手にとっては憧れの場所であった。
オリエンタルドームに行われる「ソング・ミュージアム」に今回私は参加出来ることになった。
これはとても喜ばしいことだった。
「ソング・ミュージアム」というのは人気の高い歌手が揃って互いの歌を歌い、競ういわば世の『歌のオリンピック』が開催されるところに自分が参加出来る・・ということだった。
この「ソング・ミュージアム」で見事優勝すると世界最高の歌手として名が残せる。
小さい頃からずっと夢見てきたものだった。
プルルル・・・
私ははっとして物思いから冷め、ジーンズの右ポケットから赤い携帯を取り出した。
着信は康夫―・・私の夫からだった。
「はい。もしもし。私よ」
「おお・・。美也子か?調子は大丈夫なのか・・?」
私はうん・・・と言った。
しかし、内心不安だった。
「頑張れよ。応援してるから」
「うん。まぁ、テレビ観ててよ。いいとこ見せるから。」
私は”無理”に笑った。
「おう・・。じゃ、後はテレビでな。」
私は寂しく携帯の電源を切った。
私は、貴方にも、息子にも、皆に迷惑かけたね。
ごめんね・・・。